なぜ国税庁から暗号資産業界へ?元エリート国家公務員が考える業界の魅力と将来

インタビュアー 藤本 真衣(ふじもと まい)

MissBitcoin / 株式会社Gracone CEO / 株式会社withB co-founder

2011年からブロックチェーン・暗号資産領域の普及に貢献して来た1人である。NFT領域においては、ライゾマティクスの真鍋大度氏や、Kevin Abosch氏といった著名アーティストと共にKizunaNFTチャリティープロジェクトの実施やCryptoArtTownというメタバース展示場運営を行なっている。GMOインターネット、BITPoint Japan、Animoca Brands、double jump.tokyo、withB、ToyCash、Anique、Neukindなどのアドバイザーも務め、Decentralizedの元CEOが立ち上げたBigTimeやAxie infinityを運営するsky mavis、Aniqueへ投資するエンジェル投資家でもある。

JVCEA 安河内 誠(やすこうち まこと)氏  

財務省、国税庁、国税局に30年以上勤務。国際課税を中心として、国税の税制改正や理論的な研究を行い、大企業の税務調査などにも携わる。2017年に「仮想通貨の税務上の課題」(税務大学校)を執筆し、それ以来仮想通貨業界と関わりを持つ。2020年9月に退官し、10月から現職。

JVCEAとは?

藤本:まず、JVCEAのことをご存知ない方のために、JVCEAがどのような団体なのか、具体的にどのようなことに取り組んでいるのか教えていただけますか?

安河内氏:JVCEAというのは、「日本暗号資産取引業協会」の略称で、英語のJapan Virtual and Crypto assets Exchange Associationの頭文字をとってJVCEAとなっています。暗号資産交換業や暗号資産関連デリバティブ取引業に関して、資金決済に関する法律(資金決済法)や金融商品取引法の登録を受けた事業者と、登録を受けようとする事業者が会員となっている団体です。設立してようやく3年が経ち、現在の会員数は37社(2021年9月29日現在)になりました。資金決済法と金融商品取引法の2つの法律に基づく認定を受けた自主規制団体で、自分たちでルールを定め、そのルールをしっかりと守ることで業界を発展させていくという活動を、中心となって取り組んでいるのが我々の協会です。

藤本:日本ではJBAやJCBA、BCCCなど数多くの業界関連協会があり、その違いが分からないという方も多いと思いますが、どのような違いがあるのでしょうか?

安河内氏:一番大きな違いはそれぞれの協会の役割だと思います。JVCEAは、自主規制団体として存在しており、そのため法令等の規制の対象になる事業者が会員になっています。JBAやJCBA、BCCCは、暗号資産に関する事業をしている方やブロックチェーンに関する事業を行っている方を広く対象として、勉強会を開いて意見交換をしたり、また制度改正の提言をしたりする業界団体だというところに違いがあると思います。

法律から自主規制規則までの一連のルールを具現化

藤本:では、JVCEAが具体的にどのようなことを行っているのかについて、細かく分類して教えていただけますか?

安河内氏:大きく分けるとふたつのことを行なっています。ひとつ目は、会員に対する点検です。先ほど申し上げたように自分たちで守るべきルール(自主規制規則)を作り、法律から自主規制規則までの一連のルールを、会員がしっかり守っているかという観点で検査したり、事業者として財務的にしっかりやっていけるのかという観点で財務状況を調べたりするなど、会員の状況を多面的にチェックする監査・モニタリング機能が大きいですね。

ふたつ目は、会員が新たに取り扱いを希望する暗号資産に対して会員が行った審査内容の確認です。「このコインを新しく取り扱いたい」、「販売したい」、「取引の対象にしたい」という時に、それが利用者保護の観点やマネーロンダリング防止の観点などで問題がないかどうか、まずはその会員が審査をするのですが、JVCEAは、その審査の内容が適切かどうかを確認するという大切な役割があります。

そのほか、国内における暗号資産の取引状況のデータを会員から集め、統計情報として公表するなども行っています。

常に変化する暗号資産業界で働く魅力、やりがいとは?

藤本:コインにはさまざまな種類があったり、トレンドやルールもどんどん変わっていったりと、変化の多い業界だなと思います。そのような中でやりがいを感じることや大変なことなど、安河内さんの目線でお話をお聞かせいただきたいです。

安河内氏:協会の業務でいうと、暗号資産業界やブロックチェーン業界について興味を持っている人であれば、その業界に携わることができるということ自体がやりがいではないでしょうか。私自身も、暗号資産にかかわるビジネスや、その思想のようなものに対して、とても将来性があると考えています。そのあたりに共感できる方というのは、ブロックチェーン業界の中の暗号資産というひとつのジャンルではありますが、一緒にやっていけることに大きなやりがいを感じていただけるのではと思います。

あとは、事業者の監査にしても、暗号資産の審査にしても、これに携わることによって専門性を高めることができる点が、職員のスキルアップやモチベーションアップにそれぞれ繋がっていくと思います。

藤本:安河内さんが「国税庁」という安定の象徴のような業界から、変化の激しい業界に転職されたことに衝撃を受けた方も多いと思います。安河内さんご自身もある程度不安のようなものもあったのではないかと思います。この業界に飛び込むことになった経緯や、当時の正直なお気持ちを聞かせていただけますか?

安河内氏:こちらに転職したのは昨年(2020年)の10月なので、あっという間だったというか、気がつかないうちに1年近く経ったという感じです。国家公務員として税金の仕事をしていた頃からすれば、「安定」という部分では大きく変化したと思います。

転職した理由には、自分の年齢的なものもあったのですが、安定している状態を「安定しているから良い」と捉えていいんだろうか、ということをずっと考えていたのも大きな理由のひとつです。「安定している」ということは、「変化を求めない」とも言えると思うのですが、世の中が変化して大きく動いている中で、変化しないことを良しとする側にいた時に、自分の中でそうした疑問を解消したいという思いが大きくなっていきました。その矢先、数年前から興味を持っていたこの業界に来る縁があったので、これはチャンスだと思い、不安はありましたが何とかなると思って転職しました。

藤本:そのように決断をして今この業界に来たことを、ご自身でも良かったと思いますか?

安河内氏:良かったと思います。今となっては以前の職場にずっといる自分を想像できないです。

自主規制団体が求める人材とは?

藤本:このインタビューは、暗号資産業界への転職を考えている方々へのきっかけになり、どうしようか悩んでいる方を後押しできるものだと思っています。業界全体としてはエンジニアをはじめさまざまな職種がある中で、JVCEAでは今どのような人材を求めていますか?

安河内氏:会員に対する監査や監督・指導が当協会の大きな役割ですので、これをできるスタッフが求める人材のひとつです。そして、暗号資産の審査に取り組めるスタッフも必要ですね。また、法律や規則などのいろいろなルールを実態に当てはめる際に、その解釈の適切性や妥当性を考える部署もあり、そのスタッフも必要です。さらに、当協会の事務局には全体で25人程度の職員がいますので、その職員を力強く支える総務スタッフも求めています。これらに加えて、我々は、自分たちでいろいろと企画やルールを考える時に、会員の担当の人たちを巻き込みながら取りまとめをすることが多いので、企画部のような部署で機能できるスタッフも必要だと思っています。

この協会ができたときには、自主規制団体の認定を受けるために必要な人材が最初から揃っていたわけではなく、認定を受けるまでの時間も短かったため、証券会社や監査法人等から力のある方に出向してもらい、対応をしていました。その後、少しずつ正規の職員を採用しているのですが、まだ数が足りておらず、道半ばという感じです。そのため、若い方から経験を積んだ方まで、このような仕事に興味を持ち、求めているスキルや経験を持った方がいれば、どんどん応募していただきたいと思っています。

大切なのは規制とイノベーションのバランス

藤本:イノベーションの部分に魅力を感じてこの業界に入られたということでしたが、JVCEAは立場的に自主規制をしていく団体ですよね。その「規制」と「イノベーション」のバランスというのはとても難しいと思いますが、そのあたりはどうなっていくのが望ましいと思いますか?

安河内氏:世の中が進んでいく中で、イノベーションはもちろん必要ですし、それが起きないと前には進んでいかないと思います。これまでも何か新しいことをしようとすると、それを邪魔する人たちがいたり、新しいことにかこつけて、例えば人からお金を取ろうとしたり悪いことをする人たちがいました。そのような人たちがいる中で、健全な業界を形成していくためには、一定のルールが必要だと思います。つまり、この業界の健やかな発展を見据えるには、事業者として参加するためのルールや、最低限の条件を定めることが必要である、という考え方です。そうした規制が全くなかったとしたら、結局はイノベーションも進まないと思うのです。

一方で、あまり規制をしすぎると、自由な発想のもとで生まれるであろうイノベーションがやはり生まれなくなる可能性もあるので、そこのバランスがとても大事だと思います。

なお私は、規制は必ずしも国や公共団体だけがやることではないとも思っています。国が規制をするのは「国民の保護」という大きな理由があるわけですが、そのような規制がどのくらいのレベルで必要なのかということを、対話の中で見定めていきながら、一番良い形で整えることが肝要だと思うのです。イノベーションを阻害せず、かつ保護すべきところは保護できるような規制をすることが、抽象的な言い方ですが必要だと考えています。

大切なのは「何のためにルールが必要なのか」ということと、「そのルールがどのレベルの厳しさを求めるべきなのか」ということです。そこも含めてバランスをとっていく必要があると思います。

世界情勢にインパクトを与える暗号資産

藤本:先日、エルサルバドルがビットコインを法定通貨に認定したことが報じられましたが、古くから暗号資産を見てこられた安河内さんは、こうした変化をどのように捉えていますか?

安河内氏:今回のエルサルバドルの件は、世の中的には凄く大きな変化だと思います。エルサルバドルという国自体が、それほど大きな国ではないからできたという面もあるかもしれませんが、そうは言ってもひとつの国として認められている場所で、ビットコインを法定通貨にして、それが世界的にも否定されず、世の中にも受け止められているところに大きな変化を感じます。もちろん、もう少し具体的に見ていく必要はありますが、暗号資産がさまざまな場所で、そしていろいろな段階で、世の中に変化を与えていることを確認できた、きわめて象徴的な事例だと思います。暗号資産が持つ影響力は大小さまざまですが、今回のエルサルバドルの件は、かなり大きな影響を与える出来事だったのではないでしょうか。

自主規制団体としての今後の目標は?

藤本:ここで、JVCEAの今後の目標や展望などについてもお聞かせいただけますか?

安河内氏:設立して3年、これまでさまざまな試行錯誤をしながらやってきましたが、その中でも見直すべきところをしっかり把握し、改善していきたいと思っています。例えば、暗号資産の審査についても、現在は新しい暗号資産を取り扱いたい業者が、そのコインが利用者保護の観点などから問題ないのかという審査を行い、その審査内容が適正かどうかを協会でチェックし、それらの結果をさらに金融庁がチェックするという流れになっています。もともとこの協会というのは、大きな流失事故が起きた後に、この業界をどのように制御していくのかという世間の視線が向けられている中で作られた背景があるため、どうしても審査が厳しく、手数のかかるものになっているところは否めません。それを今、できるだけそれぞれの段階を効率化し、重複していたり、不要な作業があったりする場合には削る、もしくは一本化していくように見直しを進めているところです。

私はこれまで、財務省で20年以上にわたって、税金の法律を毎年改正する仕事をしてきました。その際、新しい制度を作ったり、制度を変えたりする時に大切にしていたのは、それまでにやってきたことをうまく新しい制度へ移行させるための工夫を織り込むということです。ルールを作ったり、変えたりする時には、新しいルールの工夫と合わせて、新しいルールにうまく移行させるための工夫が重要で、この点にはかなり神経を使っていました。

そのような意味では、今回、暗号資産の審査・確認プロセスを見直すなかで、「新しいやり方」と「その新しいやり方に移行していくためのやり方」の両方をしっかり考えていく必要があると思っています。それがうまくいくと、利用者や事業者にとっても、また金融庁から見ても、合理的で良いものになるはずです。

世の中の変化を感じて自身自身も変化する

藤本:では最後に、安河内さんから皆さんにメッセージをいただけますか?

安河内氏:では、暗号資産のお金のような側面から話をします。今まで日本では、日本円がずっと使われてきました。それは私たちが日本円を「お金として使われるものだ」と信じ、信じていることさえ認識せずに使ってきたからです。ところが、暗号資産がお金のように使えるものとして登場し、それが私たちの社会で存在感を高め、いろいろな種類の暗号資産も登場し、この状況が受け入れられるようになってくると、自分が何を信じて、何を使うのが自分にとって一番良いのかということを、誰かに決められるのではなく、自分で決めていく、ということになるかもしれません。

就職や転職をするときにも、どういった業種でどのような仕事に携わりたいのか、本当に自分がしたいことは何なのか、自分が信じるものは何なのか、いろいろ考えて決めていると思います。暗号資産のような新しい潮流のなかに身を置くと、今後私たちは、さらに、あらゆることにおいて自律的な判断が求められる、そんな世の中で生きることになるのだろうと考えるようになります。

今までの常識からすると、変わった人たちが変わったことをやっている業界と思われているかもしれませんが、そのような業界で共に働き、世の中の変化を実際に感じる、あるいは変化させていくことで、一緒に進んでいく人が増えるととても嬉しいですね。

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