2022年7月11日に開催された「Non Fungible Tokyo 2022」のセッション “Web3 × エンターテイメント”をレポートします。
水野 和寛(みずの かずひろ)氏
株式会社Minto 代表取締役
株式会社寺島情報企画にてモバイルコンテンツ事業を立ち上げ、様々なサイトをプロデュース。中でもデコメサイトは、月額有料会員で約100万人の日本一のサイトになり、絵文字、デコメブームを牽引。その後、スマホアプリ事業を立ち上げ、株式会社テクノードを設立。同社の代表取締役兼プロデューサーとして、ヒットアプリを多数生み出す。手掛けたアプリのダウンロード数は1000万DL以上。 2011年に株式会社クオンを設立。インターネット発のキャラクター事業を展開し、世界中のチャットアプリと提携し、スタンプのダウンロード数はおよそ50億件で世界一。中国、タイ、ベトナムに支社を展開中。2018年からブロックチェーン/NFT事業を開始し、CryptoCrystalのNFTは流通総額5億円超の世界的なトレンドに。2021年にはThe Sandboxと提携し、メタバースへも進出。11月のLANDセール売上は2.4億円超に。2022年1月に国内No.1のSNS漫画事業を手がけるwwwaapと経営統合し、株式会社Minto 代表取締役に。
松尾 直輝(まつお なおき)氏
KLKTN Limited 事業開発部長
KLKTNにて日本国内の事業開発を担当。広告会社でのAEを経験したのち、シンガポールへ移りウェブ開発を学びエンジニアへとキャリアチェンジ。日本帰国時にKLKTNのシードインベスターの一社であるBEENOSへ入社。フルスタックエンジニアとして新規事業開発をテック / ビジネスの両面で行う。音楽xNFTコミュニティのVVAVE3発起人の1人。
Sebastien Borget(セバスチャン・ボルジェ)氏
COO and Co-Founder of The Sandbox
Sebastien Borgetは、分散型メタバースThe Sandboxの共同創設者兼COO。The Sandboxは、プレイヤーはNFTとSANDというプラットフォームのメインユーティリティトークンを使って自分の経験を創造、プレイ、所有、管理、マネタイズできる仮想世界である。また、Sebastienは2020年に業界の主要メンバー300人で構成される非営利団体「Blockchain Game Alliance」の代表理事に就任。彼は最近、CoinTelegraph( https://cointelegraph.com/top-people-in-crypto-and-blockchain/sebastien-borget )のTop #100 2022 most influential people in cryptoで4位に選ばれた。
岩永 朝陽(いわなが あさひ)氏
エイベックス株式会社 テクノロジー顧問
1999年よりシリコンバレーのベンチャー企業でECサービスの立ち上げに参画。帰国後、日立にてシステム開発、ナスダック上場企業にて放送・VOD 関連のエンターテインメント事業でプロダクトマネージャーとして9年、さらに海外ゲームパブリッシングなどを経て、2019年4月エイベックス株式会社 執行役員、2019年5月エイベックス・テクノロジーズ株式会社 代表取締役社長に就任。
水野氏:それでは「Web3×エンターテイメント」というテーマでセッションを始めます。
最初に岩永さんから自己紹介をお願いいたします。
岩永氏:岩永と申します。エイベックスでWeb3、ブロックチェーン、NFTの事業を全社横断で展開しております。よろしくお願いします。
Sebastien氏:Sebastien Borgetです。The SandboxのCo-FounderとCOOをしています。The Sandboxはディセントラライズのメタバースで、UGCで体験、エクスペリエンスを作る環境を作っております。
松尾氏:KLKTNの松尾と申します。KLKTNの事業開発部長として日本のIP担当をしております。KLKTNと並行してVVAVE3という音楽とNFTのコミュニティを国内のNFTの方々と一緒に開催しております。よろしくお願いします。
水野氏:ありがとうございます。こういった形でいくつかのプロジェクトを持っておられるという観点でもお伺いしたいと思っております。
最後に、モデレーターを務めますMintoの水野と申します。Web2からWeb3の事業を幅広く、エンタメコンテンツ展開してまして、Web3ではCryptoCrystalという2018年に始めたNFTのプロジェクトから、直近ではThe Sandboxさんでのメタバースのプロジェクト、自社のキャラクターおよび“キャプテン翼”のプロジェクトをお預かりしてコンテンツ展開しております。
まず「Web3×エンターテイメント」だと括りが大きすぎますので、今回は「ブロックチェーンを活用したNFT、ゲーム、それからメタバース、音楽などの新しいエンターテイメント」という形で定義付けして話していきます。
私自身が事業者の立場としてよく聞かれるのは、“Web3のエンターテイメントはほんとに大衆向けエンターテイメントとなるのか?”、“マスアダプションするのか?”といった点です。そもそもマスアダプションしないで、ハイブランドやストリートカルチャーのブランドみたいに進化していくという意見もあると思います。それぞれのサービスの中で、どういった形でマスアダプションしていくと考えているかについてお聞きしたいです。
まず松尾さん、いかがでしょうか。
松尾氏:KLKTNでは、アーティストの方々と一緒にやることが多いのですが、KLKTN自体もともとファンダムのサービスのような形でスタートした背景があります。音楽アーティストのファンというと、一般的にマスと呼ばれる部類だと思うのですが、私たちKLKTNは基本的にはマスアダプションをする可能性がすごく高いのではと思っています。
ただ、やはりなかなか難しいところがあるのも事実で、この1~2年、いろいろとサービスやプロジェクトを展開した中で、一般の方々がアーティストの発信するNFTをどう受け止めるのかや、どのようなところに価値を感じるのかをいかに出していくかが肝になるのではと思います。そのため、これから少し時間はかかるかもしれないですが、その部分をしっかりと見つけて、きちんと提供できれば、マスアダプションするのではないかと思っております。
水野氏:松尾さんはどのくらいでマスアダプションしていくとイメージされていますか。
松尾氏:そうですね。いろいろと試してきて、例えばどのようなことをすればファンの人たちが喜ぶのか、欲しいと思ってくれるのかについては気付きが多くなってきたと思っていまして、そんなに遠くない未来、個人的には2年あればマスアダプションできるのではと思っています。
水野氏:ありがとうございます。同じ質問をSebastienさんにもお願いしたいのですが、The Sandboxはブロックチェーンメタバースの中ではトップランナーという立ち位置だと思うのですが、今後どういった形で、いつごろマスアダプションしてくるでしょうか。
Sebastien氏:元々メタバースはUGCで作られることがメインの目的で、本当にユーザーがクリエイトするコンテンツのエコシステムになることが目標なので、一番大切なのはユーザーが楽しめるようなエンターテイメント的な内容を作ることができる、そのような環境を作っていくことだと思っています。ですので、もっといろいろなユーザーがコンテンツを作って、メタバースを大きくすることが重要だと思います。
ユーザーに興味を持ってもらうために、大きなブランドと組んだり、人気のあるブランドをメタバースに入れ込んで、より楽しく遊べるように、クリエイトできるメタバースを作っています。もともとゲーム業界が多かったのですが、かなり早い段階でエンターテイメントや、映画業界、音楽業界、ファッションでもランジェリー等他の業界のブランドが入ってきているので、非常に楽しい環境になってきていると思います。
ブランドのおかげで、そのブランドのファンの方々がメタバースで集まって、ブランドを楽しんだり、新しいユーザーのコンテンツも楽しんでいただいて、だんだん人気が広がっていけば、数年後にはマスアダプションに辿り着くかもしれません。
水野氏:何年後ぐらいになると思いますか。
Sebastien氏:今年の3月にThe Sandboxのアルファシーズン2が出て、スヌープ・ドッグというラッパーと、South China Morning Postという香港ベースの中国の新聞と、Blond:ishというDJの3つが加わったのですが、その3ブランドだけで、35万人のユーザーを突破しました。
今年の夏にシーズン3が出る予定なのですが、さらに大きなブランドが入ってくることになる予定ですので、ユーザーがもっと増えてくるかもしれません。このサイクルを長期的なトレンドとして考えると、おそらく3〜4年間ぐらいでマスアダプションに辿り着くのではないかと思ってます。
水野氏:ありがとうございました。
次に、Web3エンターテイメントはトークンなども含めて投資の要素があるので、入りづらいと感じる部分があると思っているのですが、今後Web3エンターテイメントにとって、投資や投機の要素というのは必須なのかについてお聞きしていきたいです。岩永さんはどうお考えでしょうか。
岩永氏:例えば、実際に株式投資をやっている人は、全体の12%位だといわれていて、その観点だと投機の部分というのが全体の1割ぐらいで、あとの9割がエンタメという形が良いのかなと思っていたりもします。
ただ投機的な要素を押し出したプロジェクトは、一気にユーザーをアクイジション(新規顧客の獲得)できる強みがあり、一方で、既にユーザーを抱えているコンテンツであったりアーティストだったりのプロジェクトに必要かは要検討です。さらに逆の議論もあると思います。ただ何かを保有することが後日、何かのバリューになって、例えばそれが自分が好きなアーティストを応援していて、10年後ぐらいに持っているものが価値を見出されたという、先に投機的な価値があるのではなく、保有していた結果、投機的価値が発生したみたいな考え方もあるのかなと思っております。なかなか表現が難しいのですが…。
水野氏:そうですね。もともと株式市場でも10〜20%の投資家がいるので、そのくらいの割合は一定数残った上でということですよね。
岩永氏:バランスが大事だと思います。バランスと、どのようなコンテンツでどのような戦略としてこの部分を見るかによるのではないかと思います。
水野氏:ありがとうございます。同じ質問をSebastienさんにもお伺いしたいです。
Sebastien氏:まずメタバースに関しては、もちろん、いろんなNFTがあるのですが、そのようなデジタルアセットに関しては、投機としてはやはりLAND(土地)とアバターが長期に使えるようなものが一番スペキュレーション(投機)などには強いというか、そのまま安定していると思います。
水野氏:価値が上がったりするものとしないもの両方あるということでしょうか。
Sebastien氏:長期的な価値が明らかになっていて、コンテクストなどもあるので、一番大切なのは、ファンやそのコミュニティに対してのコミュニケーションだと考えています。本当に興味を持った人に価値が見えるようにコミュニティにアピールとコミュニケーションをしておかないと、逆に適当にスペキュレーションをしようと思っている方にいってしまう可能性があるので、きちんとコントロールするべきだと思います。
水野氏:ありがとうございます。Web3のコンテンツ、NFTに関していうと、コンテンツの転売やNFTを購入した人に商用権を渡したりすることができます。あとはDAOでコンテンツを作ったり、コンテンツを複数人に共有したりということもよくある世界で、Web3のエンターテイメントコンテンツのオーナーシップを誰が持つべきかが議論になると思ってます。こちらはファンコミュニティと関連するというところで、松尾さんいかがでしょうか。
松尾氏:基本的にコンテンツのオーナーシップは、クリエイター本人が持つべきだと思うのですが、例えば、その使い方とか利用方法等に関しては、そのクリエイターが決めればいいと思います。
水野氏:KLKTNの中でファンと一緒に何かを作っていくといったことを、DAO的な動きもすでに取り組みはじめておられるとお見受けしていますが、いかがでしょうか。
松尾氏:そうですね。Web3の面白いところは、相互インタラクションができるというところで、トークンによってつながった関係値を可視化して、新しいクリエイティブが生まれるところが見えると、より面白くなるんじゃないかとは思うのですが、その主導権を誰が握るのかというのはとても難しいと思います。コンテンツクリエイターの相互同意みたいなものがあれば活発になると思いますね。
水野氏:ありがとうございます。岩永さんは所有権や著作権など、深く研究や実証実験、事業などをやっていらっしゃると思いますがいかがでしょうか。
岩永氏:著作権は、いろんな権利の集合体になっています。エンタメは基本的にライセンスビジネスといわれていて、これは音楽でも、映画でもそうだと思うのですが、一番実権を握っているのは弁護士だったりします。なので、ハリウッドでは何か“コンテンツをライセンスします”となると絶対にトップの弁護士が出てきて、そこで細かくいろんな権利についての話をしますので、コンテンツのオーナーシップの議論においては、ひとつのことについての話ではなくて、分散されている話だと思います。
それが“この仕事においてはどこどこにライセンスアウトします”、“これにおいてはどこどこにライセンスアウトします”みたいに、実態としてはそうなっていることを考えると、オーナーシップ自体をクリエイターが持つことに対しては賛成ではあるものの、それ自体をビジネスとして多角的に展開していくとなると、これは本当にクリエイターやアーティストがやりたい仕事なのかと思ってしまうことはあります。
ただ、現実問題的にはいろいろ難しさはありますが、ユーザーが何らかの権利を持つということで、このコンテンツを応援していけるようなサイクルを作りだせるんじゃないかと思います。
水野氏:ありがとうございます。The SandboxもまさにUGCを推進していて、クリエイターエコノミーを大事にしていらっしゃると思うのですが、この質問に対してはいかがでしょうか。
Sebastien氏:Robloxであったり、そういったプラットフォームではすでにユーザーがいろいろなコンテンツを作っていると思いますが、そういったトラディショナルな環境でもらえる報酬というのは30%~50%ぐらいが理想的なのですが、メタバースの環境での新しいディスラプションはそれを99%~100%に持っていくということが目標です。
まだ慣れてないブランドもありますし、そのような環境は完全に新しいエコシステムなので、パートナーのブランドにも教育を与えなければいけないと思っております。そして最終的な目標としては、どのブランドを使っても、自分のLANDで何かを作ったクリエイターが、それを収益化できるようになることが非常に大切なポイントです。
水野氏:ありがとうございます。
Web3のエンターテイメントでもデジタルとフィジカルグッズやリアルイベントの連携、連動が行われていくと思うのですが、松尾さんは今後どういった形で進化していくと思いますか。
松尾氏:僕たちがやっているVVAVE3というコミュニティは、デジタルの中だけでは終わらない体験をファンの人やクリエイターの人たちに共有したいという思いを持ってスタートしました。最近では、NFT.NYCでも非常に様々なイベントが派生していると思いましたが、結局NFTを所有する先にある体験だったりが目に見える形で体感できないと、これを持つ意味やNFTのデジタルアセットを持つ意味が薄くなっていくんじゃないかと思っています。
水野氏:入場券をNFTにしていましたよね。
松尾氏:そうですね。今回挑戦してみました。あくまでVVAVE3の観点でいうと、僕たちにとって、リアルイベントはあくまできっかけに過ぎなくて、単純に音楽とNFTを楽しむ方々に、リアルとデジタルを選ぶ機会を与えたいと思い、僕たちはリアルイベントをスタートにしました。実はThe SandboxにVVAVE3 LANDというものも持っていまして、そこに僕たちのフェススペースみたいなものを作り上げて、うちのコミュニティのクリエイターがイベントができるようなオープンな環境を作りたいなと思っています。
水野氏:ありがとうございます。
最後に、皆様にお聞きしたいのですが、グローバルなプラットフォームやWeb3のエンタメの世界の中で、日本のクリエイターやアーティスト、ブランドが世界一になっていくためにはどういった要素が必要になると思いますか。
岩永氏:これの答えに関して、シンプルですが早くやるということだと思います。この業界、結局分からないところが多いと思っていて、絶対的な成功というのも、“これが成功だ”って形取られたものもあまりなくて、まだみんな手探りでやっている段階だと思います。この雑多な状態の中でいかに早く動いて、いかに早く自分たちでこの世界でビジョンを持って形取ろうとするかというところが、一つの鍵になると思っています。
水野氏:まずは始めてみるということですね。逆にいえば始めさえすれば、日本のクリエイターやアーティスト、ブランドというのは世界にすぐ届くぐらいの感覚があるということですよね。
岩永氏:そうですね。日本のクリエイターやアーティストは、持っているもの自体はいいと思います。ただ始めてみない限りは、外から“Web3って何だろう”と眺めている状態だと思うので、世界一というのは、まず始めて何かを踏み出した先に見えてくるものだと思っています。
水野氏:ありがとうございます。
次に、SebastienさんにWeb3のエンタメの中で日本のクリエイターが輝くにはどうしたらいいかをお聞きできればと思います。
Sebastien氏:約2,000冊の日本の漫画を持っていて、日本のカルチャーに育てられたひとりの外国人としては、子どものときから見てるアニメなど、そして特に子供のときにやってたゲームは、だいたい日本から来ているもの、日本人のクリエイターに作られたものなので、私は日本を、昔から大きな夢みたいに思っているところがあります。
そのあたりもインスピレーションになっていて、10年以上ゲーム業界で働いているのも、そしてオープンメタバースを作ろうと思ったのも、きっかけはやはり日本の文化が好きだからだと思います。
でも、残念ながら最近の日本の企業は、積極的に新しい分野には入ろうとせずに様子を見ていることが多く、先ほどおっしゃった通り素晴らしいブランドがあるのに、入らずにいることが少し残念だな、もったいないなと思っております。
ここでできれば皆さんにぜひいろいろ挑戦していただいて、そしてMintoさんも含めて皆で頑張って、最初の一歩としてアバターを作って、メタバースを体験していただければと思っております。今日ご覧いただいている皆さんにもそう望んでおります。
水野氏:ありがとうございます。まずは一歩踏み出してほしいというところですね。
最後に松尾さん、お願いします。
松尾氏:私も同じで、まずは一歩というところが大事だと思っています。やはり古くから培われたビジネスのロジックとか、ライセンシングのルールとか、いろんなところががんじがらめになっていて、なかなか手を出しにくい状況があります。それに対して、あえて挑戦していくことが大事だと思っていて、今のルールにとらわれない、恐れない態度でWeb3の中に飛び込んでいくことが大事だと思っています。
水野氏:ありがとうございます。以上で「Web3×エンターテイメント」のセッションは終わりにしたいと思います。皆さまのお役に立てれば何よりです。ありがとうございました。
Web掲載のない非公開求人もございます。詳細は以下の転職相談よりお問い合わせください。