2021年6月10-11日に開催された「Non-Fungible Tokyo2021」DAY2のセッション“投資家から見たNFTマーケット The NFT market from an investor’s perspective”をレポートします。
金井 玄 (かない げん) 氏
Animoca Brands 戦略ディレクター
Gen Kanai氏はAnimoca Brandsの戦略的提携責任者。Firefoxブラウザおよび開かれたインターネットに注力した非営利組織Mozillaの元アジアコミュニティ関与の責任者。それ以前は、ソニー、Sony Electronics US、米国トヨタ自動車販売に勤務。
Ethan Kim(イーサン・キム)氏
Co-founder, Partner at Hashed
SK社に買収された韓国初期のモバイルメッセンジャーの1つの創業者のエンジニア。エレクトロニック・アーツ出身。アプリケーションの融合(ゲーム、eスポーツ、コンテンツ)およびNFTに注力。
Rui Zhang(ルイ・チャン)氏
General Partner of gumi Cryptos Capital
gumi Cryptos CapitalのCFA、CPA、およびGPであり、gum inc.iのバイスプレジデント。投資とコンピューターサイエンス両方の経歴を活かし、キャリア初期には銀行業およびコンサルタント会社で5年間の経験を積む。その後、Zenith Group Holdingsを共同設立し、買収によりイグジットに成功。gumiに入社し以降、gumiグループの国際投資事業を牽引し、複数のイグジットに成功。2018年にはgumi Cryptos Capitalの運用を開始し、公平な時価基準で現在までに4倍以上の利益を獲得。
Steve Lee(スティーブ・リー)氏
Asia Head & Investment Director at BlockTower Capital
ニューヨークの暗号資産ヘッジファンドである BlockTowerに勤務。3年前に投資チームに加わり、二次利用および一次利用両方の市場機会を調査している。以前は、ポートフォリオマネジャーおよびトレーダーとして東京とシンガポールのゴールドマンサックスで8年間勤務。
Alyssa Tsai(アリッサ・ツァイ)氏
Founder and CEO at PANONY
アジアを拠点とする大手暗号資産投資、インキュベーション、およびメディア会社であるPANONYおよびPANewsの創業者であり最高責任者。2017年から100以上のプロジェクトに投資・助言し、2020年にはForbesの30アンダー30アジアの受賞者に名を連ねる。
投資をしているNFTプロジェクトは?
アリッサ氏:初めて投資をしたNFTプロジェクトと、これまでどれだけのプロジェクトに投資してきたかを教えていただけますか?
ルイ氏:私たちはOpenSeaなどのマーケットプレイスプロジェクトや、ゲーム系プロジェクトなどに投資してきました。
初めて投資したプロジェクトはOpenSeaで、2019年のまだNFTマーケットが小さい頃でした。
その頃からNFTは将来成長し、NFTマーケットプレイスはこのマーケットにおけるインフラになると考え、投資を決めました。
イーサン氏:2016年に、ビットコインやイーサリアムなどを含む暗号資産への投資を始めました。NFTに関しては、2017年、2018年にいくつかのプロジェクトに投資しました。
その頃、Decentraland、Axie Infinity、The Sandbox、WAXプロトコルに、Hashedの共同創業者と一緒に投資をしました。その当時のNFTプロジェクトの多くは、ゲームやメタバース関連でしたが、今はデジタルアートが主流になっています。
私たちは、そういったプロジェクトのNFTではなく、株式やトークンに投資をしています。
これまでNFTバンクなど11プロジェクトに投資をしてきました。
スティーブ氏:NFT分野に関しては2018年から取り組んでいます。
今年投資をしたプロジェクトには、Efinity、Showcase、SuperRareなどがあります。それまでにも、アメリカ、韓国、その他アジアのプロジェクトに投資をしています。
金井氏: 私たちはCryptoKittiesの頃からNFTに投資をしていて、最初のパートナーシップは、CryptoKittiesのアジアにおけるライセンスのリセールでした。
それ以来、30以上の投資を行い、The Sandbox、WAXの買収、Dapper、Harmony、Axie Infinity、OpenSeaなどへの投資、そしてBinanceやPolygonとのパートナーシップを締結しました。
また私たちのプロジェクトをサポートするために、複数のトークンをローンチしています。Animoca BrandsはNFTのあらゆる領域で積極的に活動しています。
集めているNFTアイテムは?
アリッサ氏:どのようなNFTを集めているか、集めていないならなぜ集めていないのかを教えてください。
ルイ氏:私はコレクターではないので、全く集めていません。
そのため、投資をする際は、NFT業界のツールとなるようなプロジェクトを選ぶようにしています。
OpenSeaは、マーケットプレイス、キュリオスはNFTの保険などNFTの活用方法や、IPホルダーを増やすプロジェクトに投資をしてきました。
資産としての観点よりは、ビジネス観点で投資を決めています。
イーサン氏:個人的にはコレクターですが、そこまでアクティブではないです。
FoundationのアートやThe SandboxやLeague of Kingdomsの土地などを保有しています。
私は、Hashedが投資をしたプロジェクトを個人的にも応援したいと思い、The SandboxやLeague of Kingdomsの土地は、最初のプリセール期間に購入しました。
NFTを積極的に集めようと考えていたら、もっと調べて価格が上がりそうなものを選んでいたと思います。
アリッサ氏:つまり、高値で売り抜けるより、個人的な興味を優先したということですね?
イーサン氏:単純に私はそういうタイプの人間ではなく、アートなどの審美眼を持っていないだけです(笑)。
土地の価格は、その上で開発されるコンテンツの価値に影響されます。
The Sandboxの土地を購入したのは、バーチャルランドの広さとコンテンツで価値が決まると考えたからです。
現在、いくつかのコンテンツプロバイダーと協力して、土地の価値を向上させようとしています。
スティーブ氏:会社という観点だと、NFTアイテムは持っていません。
なぜなら、私の会社では、特定のNFTアイテムで、良い投資を行うことができるとは思っていないからです。
しかし、個人としては、たくさんのNFTアイテムを持っています。私はアートが好きで、たくさんのアートを保有しています。アーティストを支援したいと思っているからです。
一方、NFTアイテムの購入にはリスクがあり、NFTアイテムから利益を上げようとは思っていません。
SuperRareは、支援しているプラットフォームに関わりたいという考えから保有しています。
他のアイテムに関しても、所有したいと思ったから買っただけで、それらの価値が、最悪の場合ゼロになることも理解しています。
NFTのフィロソフィーに共感しているので、自分が見て、使ってみたいアイテムを買って、そのコミュニティに参加するようにしています。
まとめると、私が個人的に購入するのは2つの理由からで、1つは会社として投資したプロジェクトを個人的にも応援したいため。もう1つは、NFTアイテムが、様々なプラットフォームでどのように進歩していくのかに興味があるからです。
金井氏:Animocaは、会社として、コレクティブル業界にフォーカスしています。
そのため、最近、QUIDDという会社を買収しました。
この会社は、有名なコレクションアプリを提供しており、このアプリでは、マーベルやディズニー、サンリオなど様々なブランドのデジタルコレクションを提供しています。
現在、これらのブランドのNFTアイテム化についての交渉を進めています。
私自身も、多くのアイテムをQUIDDアプリ上で持っています。
子供の頃に好きだったテレビ番組やハローキティのアイテムを、QUIDDアプリで集めることが好きです。
NFT投資のポイントは?
アリッサ氏: NFTプロジェクトへの投資を決める際、どのようなメトリクス(測定基準)を使っていますか?
ルイ氏:gumi Cryptosとしては、特定のNFTアセットには投資せず、ビジネス観点で、そのビジネスがエコシステム全体の成長に貢献しそうかどうかで判断します。
キーメトリクスとしての1つ目は、ユーザービリティです。
投機だけでは、NFTアセット市場は持続可能ではなく、集めることが好きな人は、まだ少ないです。
例えば、NFTアセットがレンディングやゲームに使えたら、NFTは集めるだけでなく特定の目的に使える特別なアイテムとなります。だから、ユーザービリティはプロジェクトを選ぶときに私が重視するポイントの1つです。
2つ目は、ユーザーエクスペリエンスです。普通のユーザーが、どうやって苦労せずにNFTに参加できるかです。
ただの投機ではなく、その価値をどう楽しんでもらえるのか、この2つを重視しています。
イーサン氏:NFTの拡張性を重視しています。
そのため、レイが言ったように、ユーザービリティを重視しており、そのNFTが、潜在的に何に、どう使えるかを考慮します。
The Sandboxの土地を例に話すと、実装されるコンテンツ次第では、ランドマークになることもできます。
また、メタバースは、自分のコンテンツをNFTとして実装することによって、自分の創造性を表現するために使えるでしょう。
メタバースに直接関係していなくても、アートなどのコンテンツは、様々なアプリやプラットフォームに統合できると思います。
私は個人的にETHカープラットフォームが好きでして、ここでは、NFTをゲームアイテムにするためのツールを提供しています。
これによって新しいトークンを発行したり、ETHカープラットフォームでイベントを主催できたりします。
このようなプラットフォームがどんどん増えたら、コンテンツ関連ビジネスにビッグバンをもたらすと思っています。
金井氏:私たちはゲームスタジオなどに投資していて、特にブロックチェーンゲームで、大きなプロジェクトに取り組もうとしているゲームスタジオに、投資をしています。
私たちは、The Sandboxを買収するなど、色んなパートナーシップを締結し、大きく成長しています。
皆さんが言っていたような分野にも投資をしていて、OpenSeaやWAXなど、ブロックチェーンゲームの成功に必須のものや、関連する分野に投資をしています。
今は、どのチェーンが主流になるかわからないので、色んなチェーンとパートナーになっています。「ブロックチェーンゲームの成功」から逆算して投資しています。
スティーブ氏:私からは、4つのポイントをお伝えします。
NFT投資において、私が重視している1つ目のポイントは、スティッキネスです。
スティッキネスとは、ユーザーがそのプラットフォームやNFTサービスを使い続けるかどうかです。
SpareRareには似たようなプラットフォームがたくさんありますが、アートという観点で言うと、アートコレクションは、伝統的で高品質な活動のようなプレミアムを重視します。
SuperRareは、高品質なアートを買いたい人から高い評価を得ているので、多くの人は、アートを買う時にSuperRareを使っています。そこで、私が投資判断をする時には、スティッキネスを重視します。
2つ目のポイントは、コミュニティを重視する事です。
プロダクト自体はまだまだでポテンシャルが低そうなものでも、クリプト業界では、コミュニティの力で想像もできないような成功が実現する時があります。アベゴッチ等のプロジェクトは、コミュニティを高く評価して投資を決めました。
3つ目は、流通チャネルです。
韓国のスーパーツリーというプロジェクトに投資をしたのですが、投資を決めた理由は、カカオトーク、LINEなどを通じた巨大な流通チャネルを持っていたからです。一般の人たちが使えないとクリプトのポテンシャルはまったく発揮されません。
4つ目は、チームです。
投資をする際、そのチームには、取り組もうとしているプロジェクトに精通したメンバーが必要だと考えています。
例えば、元サッカー選手がデジタルアートプロジェクトを立ち上げるといっても、私は投資しません。
一方で、投資したShowcaseのように、ファッション業界などでのマーケティングに取り組んできた人が、NFTインスタグラムみたいなプロジェクトをやろうとしていたら、投資をするかもしれません。
チームに、そのプロジェクトに関連する業界の直接の経験があるかどうかを重要視しています。
アリッサ氏:私は特にコミュニティに共感します。
コミュニティは投資や売買をする時に非常に重要な要素です。
NBA Top Shotなどはバスケコミュニティからのコレクターがいますね。
NFTの流動性の問題はチャンスになり得るか?
アリッサ氏:多くの人がNFTを購入しても、現状流動性がないことを問題だと考えています。
皆さんはこの流動性の問題が将来解決されると思いますか?
ルイ氏:NFTの流動性は、解決されない問題だと思います。
NFTは発行枚数を限定する以上、流動性を確保するのは難しいです。
流動性について考える場合、NFTを投機的に買って、高値で誰かに売りたい場合は、流動性の欠如は問題です。
一方、NFTがコレクションするためのものなら、コレクターは所有したいので、流動性の欠如は問題にはなりません。
また、NFTを持つ目的が、例えば、あるゲームで遊ぶために必要という事なら、流動性は問題ではありません。
NFTマーケットで取引したいなら、インデックスのような金融商品を作ることなども考えられますし、DeFiでもNFTを担保資産として受け入れるような動きもあります。だから、様々な目的に応じて、この流動性の問題を解決する機能が出てくると思います。
スティーブ氏:流動性は投資家、投機家にとっては問題ですが、クリプトにとってはチャンスです。
多くのクリプトプロジェクトは、NFTを活用して、お金を借りたり、担保として使って、何かを発行できるようにしたりしています。
なので、流動性はチャンスだと思います。
バブルに乗じてNFTを買って、すぐに売り抜けたい人にとっては、流動性がないことは問題です。
したがって、真のクリプトユーザーにとってこれはむしろチャンスだと思います。
イーサン氏:流動性がないのは、NFTの性質だと思います。
アートで考えると、多くのアートは一般人からの需要はなく、ユーザーなどでも需要があるのは一握りです。
全てのNFTやアートは、1つの供給しかなく、その価格は需要次第です。バブルが終わると、多くのNFTの需要はなくなるでしょう。
NFTのコンセプトが広く受け入れられたとしてもこれは変わらないでしょう。
特定の有名なNFTのみが需要があり、それらを細分化することで、保有ハードルが下がり、流動性ができると思います。
基本的に、持っているNFTのユースケースを提供することで、NFT市場を大きく成長させるでしょう。
NFTに関しては、投機的な動きも出ると思いますが、今後様々なアプリやサービスで利用されるようになるでしょう。
金井氏:私がゲームディベロッパーとして追加したいポイントは、私たちはNFTを買う理由として、ゲームを使っています。
もちろん、NFTを集めるだけも可能ですが、それらのNFTを使ってゲームで勝って、利益を得ることもできます。
私たちはゲームによって、ユーティリティを提供し、AnimocaのNFTを買うインセンティブにしています。
NFT普及のために必要なこととは何か?
アリッサ氏:暗号資産(仮想通貨)市場は大きく変動しますが、NFT市場は暗号資産市場と相関するのでしょうか?NFTの普及と暗号資産市場との相関についての意見を教えてください。
ルイ氏:長期的な視点で言うと、NFT市場は暗号資産市場とは別になると思いますが、現在のところは、多くの人はNFTをトークンや暗号資産の1種類と考えています。
でも、NFTは、様々な資産をデジタル化するための方法だと私は考えています。
例えば、NFTの性質上、クリエイターにとってはデジタルアートをNFTにすることで、より簡単に流通の追跡や著作権管理などができます。
音楽に関して言うと、あらゆる要素に複数のプレイヤーがいます。ミュージシャン、コンポーザー、レーベル、企業、ディストリビューターなどがいて、クリエイターの作品から利益を得ています。
NFTでは、トランザクションやディストリビューションを全て追跡できるので、オリジナルクリエイターは、二次市場、三次市場での売買からも利益を得ることができるようになります。
こういう機能がリアルワールドのユースケースにメリットをもたらします。NFTを物理資産に紐づけるようなトレンドも今後出てくると思います。
イーサン氏:NFTの普及と言う観点では、短期的にはNFTに対する規制や政策が必要だと思います。これは税金という観点でも重要で、政府には、NFTを保有したい投資家へのセーフティネットを提供すべきです。
また、NFTを保有するバリアをなくすことも必要です。NFT投資を活発にすることで、ETFバスケットタイプのような金融商品を活用することができ、誰でも簡単にNFTを保有できるようになります。
長期的には、先ほども言ったようにユースケースを増やす必要があります。
暗号資産市場との相関については、現在の大半のNFTプロジェクトは、イーサリアムベースで、その取引単位もたいていの場合、ETHなので相関関係は強いです。
現在、市場への資金の供給は史上最大規模になっていて、これが暗号資産市場にも影響を与えています。
そして、暗号資産市場は、NFT市場に影響を与えています。
現在のNFT市場での価格は、多くの一般投資家ではなく、一部の大口の暗号資産投資家の動向で決まっています。
NBA Top Shotが証明したように、サービスを使う時にユーザーは、ブロックチェーンや暗号資産について知る必要がありません。
したがって、NFTがより普及して一層多くのユースケースが出てきたら、相関は、なくなっていくと思います。
スティーブ氏:NFTがメインストリームになるためには、ディストリビューターによって統合される必要があります。
日本で言うと、LINEやソフトバンクです。このような会社は、大量の流通チャンネルを持っているので、NFTを活用すれば、普及の大きなきっかけになるでしょう。
また、NFT関連の政策に関しては、私の知っている限り、日本は一番進んでいます。政府は、NFTを規制されている資産として認めています。そして、日本市場において自由に取引できます。ただ、規制をより明確にすることは必須です。
暗号資産市場との相関に関しては、イーサンと同意見です。
なぜなら、NFTはまだバブルのステージだからです。でも、NFTは、デジタル所有権というブロックチェーンなしでは成立しないユースケースです。
DeFi、NFT、決済は、暗号資産の普及において最も有望な分野だと思っています。
リアルユースケースが増えて、NFTが物理資産と統合させることができれば、より多くの人が関心を持って、NFTの本当の価値を理解することができます。
金井氏:NFTの普及に関しては、世界的に有名なブランドとのライセンシングと、パートナーシップにフォーカスしています。
モータースポーツに力を入れているので、世界的に有名なF1やモトローラーなどとパートナーシップを締結しました。
また、QUIDDビジネスを通じて、マーベルとディズニーとパートナーシップを締結しました。
私たちは最高のブランドを探して、彼らと協力して、それによって世界中の多くの人を、ブロックチェーンとブロックチェーンゲームの世界に来てもらえるようにしています。
NFTの普及と暗号資産市場との相関については、特に追加するようなことはありません。
アリッサ氏:最後に、このページを見ている方へのメッセージをお願いします。
スティーブ氏:昨日、別のセッションをモデレートしたのですが、多くの投資家がNFTバブルに参戦しています。
私から言えることは、今のNFTの状態はバブルかもしれませんが、今後なくなるようなものではありません。
この業界の人たちがNFTでどういう物を作っているのか見て、触ってみてください。そして、NFT分野に対してより長期的な目線を持ってください。
ルイ氏:他の皆様と同様に、いろんなプロダクトオーナーのビジョン等を見ているので、スティーブと同じく、短期的な市場の話だけでなく、NFTには多くのポテンシャルがあると信じています。
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