2022年7月15日に開催された「Web3 Conference Tokyo Vol.2」のセッション “「日本のWeb3の未来」”をレポートします。
設楽悠介(しだらゆうすけ) 氏
株式会社幻冬舎.あたらしい経済 編集長
これからの「あたらしい時代」に向けた幻冬舎の新規プロジェクト、ブロックチェーン暗号資産メディア「あたらしい経済」編集長で、幻冬舎コミックス取締役。メディアとコミュニティ中心に、イベント、学習の場の提供、書籍の出版、デジタルコンテンツの配信、トークンエコノミーを活用したコミュニティの活性化を目指し、ブロックチェーン、仮想通貨(暗号通貨)を始め、トークンエコノミー、評価経済、シェアリングエコノミー等の情報を発信しています。
Sota Watanabe(わたなべ そうた)氏
Astar Network Founder
Astar Network、Next Web Capital ファウンダーであり、一般社団法人 日本ブロックチェーン協会の理事も務めている。
設楽氏:2018年から幻冬舎でブロックチェーン、暗号資産に特化したメディア「あたらしい経済」を編集している設楽です。
本セッションでは、日本のWeb3の未来について話をしていこうと思います。
Watanabeさん、よろしくお願いします。
Watanabe氏:よろしくお願いします。
設楽氏:ご存じの方も多いとは思いますが、自己紹介をお願いします。
Watanabe氏:Watanabe Sotaと申します。Stake Technologies株式会社という会社のCEOを務めていまして、現在シンガポールにいます。Astar Networkという日本発のパブリックブロックチェーンを作っています。現在のブロックチェーンは、ビットコインやイーサリアム等様々なものがあり、それらがデフォルトでつながっていない状態です。そのため、トークンをチェーン間で跨ぐ際に、お金と時間がかかります。そこに対して我々は将来的にいろいろなチェーンが繋がったときのスマートコントラクトハブとなるようなプラットフォームをAstarという名前で作っています。
3年前から始めて、幸いなことにコインベースや、バイナンス、Polychain、Web3という言葉の発案者でイーサリアムのCTO であるGavin Woodさん、Polkadotのファウンダーなどの方々にサポートしていただいています。今日は設楽さんとお話できるということですごく楽しみにしてきました。よろしくお願いします。
設楽氏:ありがとうございます。僕も簡単に自己紹介させていただきます。僕は先ほど言ったようにあたらしい経済というメディアを編集しているのでぜひ見ていただきたいです。Watanabeさんとの出会いは、多分4年前ぐらいですよね。
すごく懐かしいのが、神田かどこかでイベントがあった際、イベントの後に当時はまだAstar立ち上げる前だったWatanabeさんとCryptoeconomics Labのファウンダーの片岡拓と一緒に世界の山ちゃん(居酒屋の店舗名)で飲んだ記憶があります。
当時の彼はアメリカのWeb3系スタートアップで働いた後に起業しようというタイミングで、とても迷っていたのですが、インターネットの歴史からWeb3の流れがこれから来るということで、「僕はパブリックチェーンの会社を作ります。」と言っていたのが記憶に残っています。覚えていますか?
Watanabe氏:覚えています。ちなみに山ちゃんではないです。山ちゃんの隣にある神保町の居酒屋ですね。
設楽氏:さすが、よく覚えていますね。オチとして、世界の山ちゃんの話で世界のSotaになったって言おうと思いましたが、間違っていましたね。
このような感じで、ずっと昔から取材をしていて、そのあとAstar Networkは今年メインネットローンチをして、先程Sotaさんが言ったように資金調達と世界の取引所でも次々に上場している状況です。皆さんもSotaさんの発信などいろいろ見られていると思います。今日はWeb3、日本でこれからどうなるの?という未来の話をします。まず日本のリアルなWeb3の現状についてお伺いしたいと思います。
Watanabeさんから見てWeb3の現状について、グローバルと比較してどのように見ていますか?
Watanabe氏:そうですね、ポジショントークなしに正直な話をすると、2、3周遅れていることは間違いないと思います。というのも、起業家側と投資家側がいて、にわとり卵問題があると思っています。投資する人たちがいなかったら、日本でなかなか起業家が育たなかったり、アイデアがわかる人がいないのでなかなかお金が入ってこないという課題もあります。また、起業家側がある程度育たなかったらそこに対して投資をしている人たちが少ないと思います。
やはり、我々の場合は日本に投資家がいなかったので海外から資金調達するしかありませんでした。資金調達をして、ここからAstarがしっかり日本で結果を出していくことが非常に重要でした。我々も日本でできればよかったのですが、その中で大変な問題になったのが税金です。日本では、期末にトークンを保有すること自体に課税されるという法人の期末課税があります。この期末課税を試算したところによると、2023年に税金が100億円を超えることになりました。シンガポールではこの税金がかからないので、海外に行かざるを得ませんでした。来年、100億円課税された場合、我々は5回分ぐらい破産します。
設楽氏:売ることが可能だとしても、トークンだからといって売れないですよね。
Watanabe氏:そうです。この税金は個人に対しても最大55パーセント課税があって、国際的にみても高額であるため、日本でビジネスが育ちづらいのではないかと思います。そうすると、トークンなどもWeb3ネイティブなプロダクトを作るというよりは、一点物のNFTやジェネレーティブな作品を売るといったことしかやりようがないというのが現状です。しかし世界で見るとDeFi、NFTFi、GameFiなど、いろいろなユースケースが出てきており、日本は一種独特な進化を歩んでいるマーケットだとは思っています。
設楽氏:ありがとうございます。まさにおっしゃる通りなのですが、最近シンガポールの規制についての話も報じられています。捉え方としては、もともとクリプト大国だった日本がいろいろなハッキング事件があって、今のように規制が厳しくなって、もしかしたら規制としての先端を行っているのではないかと思っています。そういう意味では世界各国もこれから厳しくなっていくのでしょうか?
Watanabe氏:そうですね、国際競争的にいうと、最初から厳しくすることにメリットはなくて、ある程度優しくして、その中でいろいろと挑戦をさせることで、失敗や成功するケースがいろいろと出てくると思っています。その過程で規制をしっかり作っていくのがアメリカなどのやり方です。
しかし、日本は何か起こる前に厳しい規制をセッティングしてしまうんです。これだとイノベーションが起こりづらいと思います。イギリスやアメリカなどの法律の仕組みと日本の法律の仕組みが違っているので、分断的なバックグラウンドがあると思いました。
結論、我々がスタートアップをコントロールできるものではないと思っています。ですが、今後日本の国力や経済を考えたとき、我々はWeb3では完全に敗北していると思います。Web3みたいな次世代の産業で、日本人や日本企業が世界で勝っていかなければ、失われた半世紀、100年を過ごすことになると思います。
そこで、Astar含め、日本人の起業家や日本のプロジェクトが世界でしっかり結果を出して、Web3時代のソニーやトヨタのように国際的なブランドを作りに行くことが必要不可欠だと思います。
設楽氏:ありがとうございます。確かにその通りですよね。
アメリカの規制のニュースはSEC(米国証券取引委員会)の誰々がこのように発言したという報道は多いものの、結局のところイノベーションを尊重したあとに決めて、後々最初の発言をすべて巻き返すようなやり方をしていますよね。その部分をアメリカと比較すると確かに日本は厳しい現状ではあります。
おそらく税制の話は、Watanabe SotaでGoogle検索をするとたくさん話してくれています。その活動が本当に実って、まさに政府の骨太の方針にも入りましたし、自民党の公約にもWeb3が入るような動きになっています。
先ほどSotaさんが言ったように、税制や法律の問題となると、いちスタートアップで自社のコントロールを行うことは正直難しい状況だと思います。今は日本でも税制、法律問題はかなり認識されてきていると思いますが、仮に来年の税制改正で、シンガポールやアメリカまでは行かなくても事業がやれる程度に規制が緩和された場合、日本はどうすべきか、どうすれば勝てるのかについて、お伺いしたいです。
Watanabe氏:規制で言うと、今おっしゃっていただいたような期末の法人課税の問題と個人の課税の税率を引き下げることが重要だと思います。
税制の話が盛り上がっていることが、クリプト業界にポジティブな影響を与えると思っている反面、日本は税制問題が解決されて初めてスタートラインに立つことになるので、解決されることだけをゴールとして捉えてはいけないと思っています。
仮に規制が緩和されて税金が下がった場合、その環境下で日本人が世界で戦っていくということが非常に重要だと思います。日本のマーケットは大きいほうだと思いますが、アメリカの起業家やアメリカのプロジェクトは最初から世界市場を標準としています。例えば、Uniswapが日本市場に参入してきたとすると、日本市場でDEX作っている人たちは太刀打ちできないと思います。なので、日本に本社をおきながら海外のマーケットを狙う人たちの全体総数を増やす必要があると思います。
設楽氏:おっしゃる通りですね。僕はそこがある意味Web2の失敗だったのではないかと思います。日本のマーケットは大きさがある程度あって、生活が成り立ってしまうので、結局日本のWeb2の素晴らしいプロダクトたちのほとんどが世界に出ることができなかったと思います。
Watanabeさんはその規制を飛び越えて、先頭をきって世界に出て、東南アジアにいながらヨーロッパと北米にも拠点を持って、海外のメディアや投資家にも接していますよね。Astarから見て、日本のプロジェクトとして求められていることはどんなことだと感じますか?
Watanabe氏:現在メンバーが31人ぐらいいます。一番大きいヨーロッパのチームが13~14人、アジアが9~10人、アメリカが8人のメンバーで活動しているのですが、日本のカルチャーに対するリスペクトがあるので、IPやNFTのような部分で期待されていると思います。
設楽氏:実際に僕も1度AstarのAMA(Ask Me Anything、何でも聞いてくださいの意)を覗いたことがあるのですが、日本の大手IPと組まないのか?というような質問が多く出ている印象でした。
Watanabe氏:組みたいのでぜひ相手してください。
設楽氏:詳しくは言えないと思いますが、大きなIPなどについての話はされていますか?
Watanabe氏:話はもちろんしています。おそらく8、9月には、良いニュースも発表されると思います。
設楽氏:楽しみにしています。やはり海外のクリプトの人たちから見ると、日本はアニメやゲームの印象が強いので、その点を特に期待されていますか?
Watanabe氏:そうですね。やはりアニメやゲームはすごく重要な領域であることには間違いないと思います。ですが、そこだけで勝てるほど甘くはないので、DeFiやL1も含めた仮想通貨領域で挑戦する数が増えないと期待には応えられないと思います。
設楽氏:もちろんIPの活用も大事だと思いますが、結局それを世界のプラットフォームに載せることになりますよね。
Watanabe氏:その中で我々が一種の天井を作ることになると思うので、しっかりと結果を出していきたいと思います。
設楽氏:ありがとうございます。VC視点の話もお伺いします。
Watanabeさんは世界的に有名なクリプトVCから資金調達されてますが、現在彼らが他の日本のプロジェクトに期待している状況なのでしょうか?
Watanabe氏:VCのアメリカや中国の人たちはファウンダーがどこにいるかについてはあまり気にしていないと思います。純粋に良いプロジェクトやチームに対して出資していくというのが主流だと思います。
それを前提として、日本市場をどう見ているかについては、おそらく分からないというのが現状だと思います。日本語が喋れる人材で世界的なプロジェクトをやっている人の人数や、日本市場に関して英語で発言している人たちがまだまだ少ないですし、海外の人たちは日本市場に対して参入障壁を感じているのではないかと思います。悔しいことですが、中国やアメリカのトップファンドにはあまり相手にされていないと思います。
設楽氏:悔しいですね。確かに僕も海外の人たちと接していて、あまり国籍は関係ないように感じました。日本、アメリカなど国籍関係なく、本当にプロトコルを見て投資してくれていると思います。だからこそ、海外の方たちに情報が届いていないことが課題だと思います。確かに海外メディアを見ても日本のニュースはほとんど出てこないので、情報発信が足りないのではと思います。もしかしたら僕がやっているようなメディアの責任でもあるような気がしますが、より世界に情報発信していくことが大きな課題だとおもいます。クリプト業界の人は日本が好きな方が多いですよね。
Watanabe氏:そうですね、日本が大好きな方は本当に多いです。
設楽氏:なので、もっと情報発信を増やしてもいいと思います。
最後のテーマになるのですが、Sotaさんが今取り組んでいることや、Astarとして、日本発のL1チェーンとして、現在取り組んでいることやその他最新情報について教えていただけませんか?
Watanabe氏:個人的に、今直近で取り組んでいることは、採用です。特にアメリカの市場での採用に力を入れています。現在8~9人のメンバーがいますが、最終的には15人にしたいと思っています。
最近クリプトのマーケットのニュースもいろいろあって、リーマンショックみたいなことが起こりましたよね。マクロ経済も疾走していて、厳しい戦いが続くと思います。ですが、我々はラッキーなことに去年の12月頃に30億円程の調達をしていたので、周りのプロジェクトが緩めていく中でも我々はしっかりアクセルを踏み切って取り組もうとしています。もう少し具体的にいうと、日本のマーケットでは大手の企業とのタイアップなどの話も進めています。
設楽氏:先日発表されたAstar Japan Labもそのような取り組みの一つですよね。
Watanabe氏:そうですね。Astar Japan Labも、やはり我々が海外で取ってきた知見や、トークンエコノミクス、その団体の人たちとの関係、新しいビジネスアップデートなどをまとめてやろうと思っています。6月に設立発表して、1カ月も経っていませんが、13社程の企業に入っていただきました。また、昨日の時点では45件程度、アプリケーションの話をいただいている状況です。逆に内部のオペレーションが追いつかないくらいで、非常にありがたいと思っています。
設楽氏:Astarが世界で結果を出すことが、昔のメジャーリーグで日本人が初めて成果を上げたように日本市場を牽引すると思っています。Watanabeさんと以前から話していて、クリプトにチャレンジするなら、Day1から海外を目指すことも悪くないと思うのですが、日本の税制が変わりそうなこと、誰でも海外に行けるわけでもないというのが現実です。例えば、既存の企業に勤めていてWeb3に興味持っている30、40代の方々は移住が厳しいですよね。そのような情熱を持った大人は日本でどういうことをすればいいと思いますか?
Watanabe氏:日本だけではなくグローバルでもそうだと思うのですが、Web3は若い人たちによるもの、大学のサークルのような空気感があって、ビジネス的に甘い印象があります。その中に、堅実にビジネスをされてきたような方々がWeb3業界に入って、社会に対してどんな価値を提供できるのかをマスアダプションするには、今までのWeb2の人たちの知見や、大人の力が必要だと思います。特に日本は政府がどれだけ規制緩和するかも大事だと思います。それは僕にできないところなので、お願いしたいと思っています。
設楽氏:ありがとうございます。Astarとして将来DAO化していく目標もあると思うのですが、ユーザーとしてはアメリカや特にアジア圏で強いですよね。
Watanabe氏:そうですね。やはりアジアにユーザーが多いです。残念なことにAstarはまだ日本の取引所に上場していないので、日本での検索数は多いのですが、ユーザー数は少ない状況です。今はアメリカで徐々にシェアを拡大しているところです。
設楽氏:Astar Japan Labは、どんな企業でも入れて、一緒にAstar Network上にエコシステムを作れるという取り組みなので、それも是非チェックしていただきたいです。
Watanabe氏:最後に、日本から世界でどれだけ結果出せるかが非常に重要だと思います。市場はクラッシュしていますが、今がゴールデンタイムだと思います。この1~2年が、Googleのような会社が生まれるところの下地になる時期だと思います。クリプトバブルが終わった今からが本当の勝負が始まると思います。Astar自身も背中で語れるように世界で結果を出していくことが重要だと思っていますし、世界で結果を出せる日本人や日本企業がどんどん増えればいいなと思います。
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