2022年7月11日に開催された「Non Fungible Tokyo 2022」のセッション“Web3 IPが創る未来”をレポートします。
Yat Siu(ヤット・シウ)氏
Animoca Brands, Co-Founder and Executive Chairman
ベテランのテクノロジー起業家/投資家であるYat Siuは、仮想資産に財産権を提供することを目的としたブロックチェーンとゲームのグローバルリーダーであるAnimoca Brandsの共同創設者兼エグゼクティブチェアマン。Yatは、ドイツ・アタリ社でキャリアをスタートし、アジア初の無料ウェブページと電子メールのプロバイダーである香港サイバーシティ/フリーネーションを設立。1998年には、多言語ホワイトラベルWebサービスのパイオニアとして数々の賞を受賞したOutblazeを立ち上げる。同社のビジネスユニットの1つをIBMに売却した後、Outblazeをデジタル・エンターテインメント・プロジェクトのインキュベーションに方向転換させた。そのプロジェクトのひとつがAnimoca Brandsである。
Yatは、世界経済フォーラムのGlobal Leader of Tomorrow、DHL/SCMP AwardsのYoung Entrepreneur of the Year、Cointelegraphのブロックチェーン分野の注目すべき人物トップ100など、数多くの賞賛を浴びている。クラシック音楽の訓練を受けたYatは、BAFTA(英国映画テレビ芸術アカデミー)の諮問委員会のメンバーであり、アジア青年オーケストラのディレクターを務めている。
藤本 真衣(ふじもと まい)氏
MissBitcoin
2011年にビットコインと出会って以来、国内外でビットコイン・ブロックチェーンの普及に邁進。海外の専門家と親交が深く「MissBitcoin」と呼ばれ親しまれている。自身は日本初の暗号通貨による寄付サイト「KIZUNA」を立ち上げる他、日本円にして17億円以上の仮想通貨寄付の実績を誇るBINANCE Charity Foundationの大使としても活動。NFT領域に関しては、2018年よりNFTに特化した大型イベントを毎年主催。2020年以降は事業投資にも力を入れており2021年Q3に月商350億円を超える記録を残した「Axie Infinity」を開発したSky Mavis、YGG、STEPN、breederDAO、BlockchainSpace、Bigtime等に出資している。
箭内 実(やない みのる)氏
Minto Inc. Senior Business development / Linker Inc. Founder
ザッパラスにてモバイルコンテンツサービスのディレクター、新規サービスの立ち上げ、インフォシーク(楽天)にてモバイルプロデューサー、広告事業の営業担当を経験する。 その後、モバイル最大級のコミックサービス「マンガ王国」(ビーグリー、東証1部)を立ち上げ、7000万インストールを超えるアプリ事業を担当し、サービス立ち上げから成長までを経験する。その後、モバイル事業会社を立ち上げ、中国NQモバイル(NY上場)の日本での立ち上げに参画。 アドイノベーションでは、ゲームパブリッシング事業や海外のモバイル広告プラットフォーム、ゲーム開発者・パブリッシャーとの業務提携に携わる。 現在は、株式会社リンカーの創業メンバーとして、ブロックチェーン事業やゲーム事業(Web3&NFT)に携わるほか、Cryptoゲームの新規プロジェクトなど、様々な事業のアドバイザーを務めている。 新規事業への挑戦として、株式会社Mintoにて、The SandboxなどのWeb3・メタバースの新規プロパティ開発を中心に、日本の新規IPや不動産をメタバース世界にプロデュースする事業開発を行う。 また、日本を代表するNFTカンファレンス「Non-Fungible Tokyo (NFT Tokyo)」のコアメンバーとして活動。 10年以上のモバイルコンテンツマーケティングの経験と、5年以上のモバイルゲーム開発者、グローバル戦略コンサルタント、事業戦略支援の経験を持つ。
絢斗 優(あやと ゆう)氏
BlockchainPROseed
アーティストとしての経歴とブロックチェーン業界の知識を活かし、他業界の橋渡し役として活動。日本最大のNFTカンファレンス「Non Fungible Tokyo」の事務局を務める。またチャリティープラットフォーム「KIZUNA」での活動では、Binanceチャリティーの支援などを行っている。クリプトアーティストとして、オーディオビジュアルコレクションをOpenSeaやFoundationで展開。メタバース領域での活動も活発で、NFTに特化したメタバースギャラリーVportalGalleryを創設。一般社団法人MetaverseJapaneの理事を務め、Web3とメタバースを繋ぐ橋渡しとしても活動中。
藤本氏:本日はNFTの世界で非常に有名なAnimoca BrandsからYat Siuさんにお越しいただいています。どうぞよろしくお願いします。
Yat氏:こんにちは、Yatです。よろしくお願いします。
藤本氏:本セッションでは私、Yatさん、絢斗さん、箭内さんとでfireside chat(*インフォーマルな対談)という形でお話しできればと思います。それでは箭内さん、よろしくお願いします。
箭内氏:初めまして、箭内と申します。今回、Non Fungible Tokyoのオーガナイザーも務めております。今日はYatさんにぜひご自身のプロジェクトのことや、NFTに対してのお考えについてお伺いできたらと思っております。
早速ですが、現在、Animoca Brandsでは非常にたくさんのIP(Intellectual property:知的財産)を保有されていて、かつ、世界中に様々なプロジェクトがある中で、各ステークホルダーの方々と上手く関係性を築いておられると思います。どのようにしてコミュニケーションを取っているのか、方法やコツについてお伺いしてもよろしいでしょうか。
Yat氏:IPホルダーは大きく分けて2種類あると思います。1つ目は、ユーザーがコンテンツを作るThe Sandboxのような形。2つ目は、既存のブランドや会社によって成立されているIPという形があると思っています。後者の場合は、通常、会社と結ぶような形で契約を締結したり、実際に会社とコミュニケーションを取って、きちんと信頼関係を構築し、やり取りをして仕事を進めていく、という形だと思っています。
NFTというワードが出始めた当時は、IPホルダー企業自体が「NFTとは?」という地点からのスタートだったため、最初のやり取りが「そもそもNFTとは何か」「どのようなことが出来てどのような利点があるのか」などのお話から始めることが多かったです。
最近では、NFTの存在を何となく知っている会社が増え、具体的にどのように動くのかについてや、ブロックチェーンの仕組みからお話しすることが多くなりました。さらに、NFTについてかなり詳しく知っていて、前のめりで「ぜひチャレンジしたいです」といってくれるプレイヤーの方も増えていて、非常に良い状況になってきていると思います。
IPホルダーに関して、Yuga LabsのBored ApeのIPを例に挙げると、こういったWeb3前提の世界観では、IPホルダーは会社ではなく、実際にそのNFTを保有している個人に変わります。ですので、今までのビジネスのやり方とは全く前提が違うものになると考えています。
こうしたWeb3ベースのIPの考え方になっていくと、これまでのIPとは異なり、そのIP自身が持っているユーティリティに焦点が当たっていくと思っており、その部分が非常に興味深いと思っています。今までは、会社がIPを保有し、しっかり管理するという流れでしたが、各IPホルダーと個別にコミュニケーションを取るようになると、より自由度が増すという点で魅力的であると思います。
箭内氏:ありがとうございます。個人的に200%同意出来る意見でした。
日本国内でも、『キャプテン翼』を含め、いろいろな有名アニメのIPがありますよね。この1年間は「NFTとは何か?」ということを重点的に伝える必要があった1年だったと思っています。
もう1つ質問なのですが、Web3のデベロッパーたちとコミュニケーションを取る必要があると思いますが、どのようにコミュニケーションを取れば良いか、気を付けている点などを教えていただけませんか。
Yat氏:現在、IPホルダーの皆様とコミュニケーションを取るのは非常に簡単になってきていると思います。例を挙げると、約二十年前にインターネットが、約十数年前にモバイルゲームが出始めた当時、「何かすごいことができるらしい」ということは何となく分かっているのですが、具体的に何をどうしたらいいのかということが分かっていない状況の人が多かったと思います。
そして今、同じような状況がNFTとIPの世界でも起きていると思っています。そのような状況の中で、どのような形でステップを進めていくべきかについてお答えしますと、まずは信頼関係を築くことが一番大事であると思います。取り組みを一緒にやろうとしている相手企業のことを知らなければ、なかなか最初の一歩も踏み出せません。
なので、今Animoca Brandsでも、もしくはThe Sandbox含む他のプロジェクトでもそうだと思いますが、まず第一歩として、自身のコミュニティやプロジェクトの存在が少しでも大衆に知られていることが大事だと思っています。名前だけでも認知されていれば、具体的に何をやっているのかが分からなくても、「きっと信頼できるんだろうな」と思っていただけることに繋がります。この状態ができていれば、第一歩が非常に築きやすくなるので良い方法だと思っています。
また、知名度や資産が積み上がり、さらにリビューや実績も積み上がることによって会社自体にも歴史ができていくと、より信頼が得られやすくなると思います。これはWeb2以前のビジネスと同様で、この「信頼を積み上げる」というプロセスは絶対欠かせない部分であると思っています。
箭内氏:ありがとうございます。おそらくこれから10代、20代のWeb3のプロデューサーがどんどん増えていくと思うのですが、そういった方々にとって非常に重要な示唆のあるメッセージになったのではと思います。
結局、Web1でも2でも3であっても、やっていることはビジネスに変わりないという点で、「お互い信頼できるかどうか」というところがやはり大事なんだと思いました。
Yat氏:そうですね。使っている技術がブロックチェーンであったり、ゼロ知識証明であったり、いろいろ進化していると思いますが、ビジネスでやっていることは、人間同士のコミュニケーションのように、繋がりを築くことだと思います。何か技術が進歩したからといって、コミュニケーション相手が機械に変わったかというとそうではなく、ヒト対ヒトなので、そこが本質だと考えています。
箭内氏:ありがとうございます。もう1つお聞きしたいのが、今、Animoca BrandsはWeb3ベースのIPを創出している会社だと思いますが、個人的にはこれまでのWeb2の世界とこれからのWeb3の世界では、アプローチの仕方が全く異なるのではないかと思っています。投資をする側の目線とWeb3上でIPを作る側の目線で、これまでと何が違うのかをお伺いしてもよろしいでしょうか?
Yat氏:今Animoca Brandsでは、OpenSeaであったりDapper Labsであったり、いろんなところに投資しており、ポートフォリオという形でいろいろなプロジェクトと関わりを持っています。
目的は非常にシンプルで、我々が投資をすることでネットワーク効果を強化するというところです。投資先が本当に価値のあるものを作っているのであれば、それは本当に投資する価値があると思っています。
一方で、オンボーディングという観点もとても大事であると思います。投資をすることで、既存のIPをWeb3の世界に乗せやすくすることが大事だと思っていて、ウォレットを通してIPを変えるような体験を整えること、そういった入り口をまず整えてあげることが大事であると考えています。
ネットワーク効果を強めるという観点で言うと、我々はOpenSeaに投資していますが、我々はどんどんIPを抱えており、その抱えたIPをOpenSeaで販売し、OpenSeaが成長すると同時にIPも成長するというような、相乗効果を得ることができています。
Web3ビジネスの特徴として、こういったプロジェクト同士の深い関わり合いがどんどん積極的に行われていくことによって、お互いのプロジェクトを成長させることができるという点が面白いと思います。Web3のパーミッションレスという側面によって、こういった相乗効果が促進されていると思っています。
Bored Ape のIPを例に挙げてお話しすると、IPの提供元や販売元といった大元はYuga Labsが提供されていたと思います。ですが、実際にこのIPを使って何かをする際に、そのYuga Labsの許可を得る必要は全くなく、トークンを保有している個人がIPを所有しているので、許可を得る必要なくいろんな活動をしても良いんです。そのため、積極的な活動がどんどん行えることが特徴的だと思います。
Web2の世界で考えると、「何か一緒にやろうよ」となれば、例えば特別にAPI(application programming interface)を開発してもらう必要があり、アクセスする権限を付与してもらう必要があります。ですので、企業間のやり取りでの摩擦が非常に大きく、なかなかスムーズにいろんな取り組みを始めづらかったのではないかと思います。
Web3であれば、プラットフォームベースでもコードが共有されていて、許可を得ることなくいろいろなコンテンツを作成したり、アップデートしたり、編集したり、付け加えたり、一緒にコラボレーションしたりが非常に行いやすい場所なので、ネットワーク効果が強くなりやすいという側面があると思います。
例えば、Wikipediaも似たような世界だと思っていて、現在、コンテンツを追加するのに誰の許可も必要なく、どんどん追加して書き加えるということができるようになっています。これによって、どんどん記事が増えたりアクセスする人が増えていると思っています。こういったWikipediaみたいな考え方でWeb3の世界観も捉えられるといいなと思いますね。
箭内氏:ありがとうございます。今のお話を踏まえて、既存のIPホルダー、アニメ会社であったり映画会社がWeb3ベースのIPを出すことについてはどのようにお考えですか?
Yat氏:もちろん、非常に面白い動きだと思います。Web2とWeb3のIPの違いでいうと、Web3の場合、そのIPを保有しているのは個人なので、ネットワーク効果が限られるという側面もあると思っています。
Web2企業のIPであれば、所有者は基本的に企業や大きい団体になります。ですので、より巨大なネットワーク効果を生み出すために大量の投資を行って、たくさんのコンテンツを作ったり、動画を作ったり、そういった活動が繰り返されているというのがWeb2の世界のIPであると思っています。この場合、ブランドを大きくするためには、ブランドの裏にいる会社を信用する必要があるなど、そういった行動原理に基づいてネットワークがどんどん大きくなっていると思っています。
一方で、Web3の場合はその逆で、パワーが個人に依存する側面があります。最初に申し上げたとおり、ネットワーク効果が強くなるかどうかに関していうと、個人の力に依存してしまうものの、その分、自由度が担保されるという点が興味深いと思っています。個人では、二次創作など、好きなコンテンツを色々自由自在に作っていくことができるので、これは既存のWeb2のIPの世界ではできなかったことだと思います。この問題点として、既存のWeb2のモノポリーに関する部分の影響が大きいと思います。単一障害点になりそうな意思決定者がいると、そのコンテンツホルダーのお伺いを立てないと新しいものを作れなかったり、カスタマイズやコラボレーションができなかったりしますよね。そういった大きいパワーがブランドを大きくするという側面はある一方で、そのブランドの保有者の一存に全てが委ねられてしまうというところが大きな障壁になってしまっていると思います。
こうしたWeb2ベースのIPの世界では、資本の力に大きく依存するのではないかと思います。お金が無いとブランドを大きくできないですし、価値を維持することもできないというところが側面としてあると思います。
とはいえ、最後にどちらが勝者になるのかについて考えると、やはりWeb3ベースというか、モノポリーのIPホルダーなのではと思います。一例としてYouTubeがまさに最適であると思っていて、ハリウッド映画などたくさんあると思いますが、ハイレベルな映画を撮影できる映画スタジオよりも、結局は個人が大量に作ったコンテンツがネットワークの成長を上回ったというところで、Web3の世界にも同じようなことが起きていくのではないかと思います。
こういったユーザージェネレートなIPは、必ずしも個人の手で作られる必要はなくて、AIが生成している、例えばBored Apeみたいな作品は、既に1000人、2000人、1万人、2万人…とたくさんの保有者がいると思いますが、特定の運営者の意向に沿わずにどんどん成長を遂げているので、非常に面白いと思います。
箭内氏:ありがとうございます。私自身が今携わっているプロジェクトでも日本で次世代のアニメーションを作ろうという活動をしている最中で、新しいIPが生まれるところ、これから動いていくという状況に立ち会っているところなので、とても興味深いお話でした。
絢斗さん、何か質問はありますか?
絢斗氏:今Mutant Ape Yacht Clubのコミュニティに属していたり、実際にNFTを持っていたりするのですが、こういったNFTをどうやって自分のために使うことができると思いますか?
例えば、こういったNFTプロジェクトに関連したコンテンツで、Tシャツなどいろんなものを作っている人がいると思うのですが、IPを保有している個人の活動の未来について、どんなものがあり得ると思いますか?
Yat氏:現在を段階でいうと、最初期に突入しているところだと思っています。Bored Ape でも、似たようなコンテンツがたくさん生まれている状況で、Tシャツができたり、Bored Apeの名前が付いたハンバーガー屋さんができたり、いろいろなコンテンツが生まれているところだと思います。スヌープ・ドッグさんがミュージックビデオを作っているのも一例として挙げられると思います。Bored Apeの制作者の方に一切許可を取らずにこういう活動ができるというところが特徴的であり、とても面白い動きだと思います。
ただ、今はまだまだ入り口のフェーズにいるので、これからの世界を想像すると、IPはまだまだ拡張できる余地があるのではないかと思います。例えば、自分が保有しているIPを簡単に売ったりカスタマイズしたりできることは素晴らしいことだと思います。ですので、特定のトークンやコードを持っている人がお互いに相乗効果をもたらせるように影響を与え合って、今持っているアセットの上にさらに新しい価値を作っていくという流れになれば、これからどんどん面白くなっていくと思いますね。
現在、HSBCであったりStandard Chartered銀行がThe Sandbox上に実機を展開しているところです。彼らは銀行なのになぜこういったNFTやブロックチェーンの世界にやってきたのか。その理由は、今Bored Apeのトークンが非常に高い価格で取引されていて、こういったNFTの世界に入って来られる方々は比較的資産を持っている裕福な方も多いのではないかというビジネス的な観点からだと考えられます。個人的には、これは資産を持っている方との接点を得られるという点で非常に合理的なアクションであると思います。
こういった形で特定のトークンを持っていると、他のブロックチェーンや、他のNFTの世界、メタバースの世界にアクセスできるようなインターオペラビリティ(相互運用性)が構築されていくというところが、これから増えていくのではないかと考えます。特定のトークンを持っているだけで、ユーティリティ、つまり何かのメリットを得られたり、他のブロックチェーン、メタバースの世界に行って恩恵を得られたり、さらには、有名なNFTを持っていれば、特定のブロックチェーンネットワークに限らず、幅広い世界から認知されている状態になります。そのNFTを持っているだけで他のブロックチェーンの世界からどんどん声が掛かっていって、ユーザーはNFTを所有しているだけで、いろいろな恩恵が得られる、という世界になっていくと思います。
こういったインターオペラビリティやメタバースを跨いだ活動がどんどん活発化していくと、今までに無かったような形態のやり取りが生まれていくのではないかと思います。
絢斗氏:そうですね、私もこの考えに同意します。Bored ApeのNFTを保有した後に、様々なネットワークからどんどん声を掛けられた経験をしたので、本当にこれは今実際に起きていることだと感じています。
これからメタバースとWeb3はどのような形で関係していくようになると思いますか?
Yat氏:メタバースとNFT、Web3は、切っても切り離せない関係にあると考えています。“ユーザー自身がIPや、コンテンツの所有権を真に保有していない状態というのは、メタバースじゃない”と言えるのではないかと思います。
とはいえ、メタバースは何か単一のものがあるだけというわけではなくて、たくさん生まれるものだと思っています。例えるならば、街や国みたいなものであると思っていて、メタバースにも本当にいろんな種類があると考えています。The SandboxであったりDecentralandであったり、既にいろいろなメタバースがありますよね。これらが全て単一で同質的なコミュニティかというと、全く違うと感じています。国で例えると、日本や韓国、中国といったように、いろいろな国がある中で、それぞれが全く異なる文化を持っていますよね。メタバースの世界でも同じように全く異なる文化が広がっていくのではないかと思っています。現実世界で中国に住んでいる人が日本に旅行に行く理由として、中国に無いいろいろな文化を楽しむためだったり、味わうために行くと思います。メタバースの世界でもそういった感覚で移動するようになるのではないかと思います。メタバースの世界でも現実世界と同様に、1つの世界のメタバースに属していたとしても、アセット自体はいろんなメタバース間を行き来したりすることができるようになるので、今後のメタバースの世界では、旅行をするような感覚で、いろんなメタバースを行ったり来たりする人が増えていくのではと思いますね。
実際にそれに近しい事象がデジタルの世界でもすでに起きています。ゲームの世界で、プレイヤー自身は同一人物なのですが、とあるゲームやまた別のゲームにといったようにいろんなゲームにアクセスし、プレイしていくなかで、各ゲームの世界ごとに全く違うコミュニティを形成しているのが近しい事象として考えられると思います。
例えば、スクウェア・エニックスが開発したゲームと、EA(Electronic Arts Inc.)のようなアメリカの会社が開発したゲームであれば、文化的な背景やコミュニティの質が全く違う世界観になっていると思いますが、もう既にいろんなゲームの世界を行ったり来たりしているユーザーもいます。もっと身近な例でいえば、会社、学校、大学、家族のコミュニティのように、いろいろなコミュニティが個人の周りでも取り巻いていて、それぞれ自分がどこにアクセスするかによって、自分の人格やキャラクターを使い分けしていると思います。このように、自分が行く場所によっていろんなカルチャーが変わっていくのを感じるのと同じように、アナロジーでメタバースの世界でも関わっていくことができるのではないかと思います。
箭内氏:ありがとうございます。これから大事になっていくのが、こういった「メタバース同士の関わり合い」みたいなところになると思います。「メタバースA」と「メタバースB」みたいなものがあった時に、例えばユーザーを相互に送り合ったり、ユーザーをスワップ、完全に交換したり、そういったやり取りが実現し得る可能性もあるのかなと考えると面白いですね。
例えば、今のゲームの世界でも、FPS(first-person shooter)ゲーム同士であれば近い属性のメタバースになっていたり、メタバースが異なるといっても似たような性質を持っていて、人がメタバース間を跨ったり移動したりすることがあり得るのではと思ったのですが、これについてはどう思いますか?
Yat氏:メタバースの良い点は、自分自身でメタバースがどのようにあるべきかを決めすぎなくても良いという側面があることだと思います。これが「パーミッションレス」の意味の持つところの本質であると考えます。
ユーザー自身が今アセットを保有していて、それをどういう目的でどのような形で活用していくかというのは、個人の裁量やユーザー自身の意思に委ねられているというところが特徴的だと思います。
例えば「アニメ」文化について振り返ってみると、昔は“子供向け”、“子どもしか見ないようなもの”という風に捉えられていたと思いますが、今ではどんどん進化していって、子供だけが見るものじゃなくなっていますよね。さらには、日本だけでなく、例えば欧米の方であったり、国籍や、バックグラウンドを問わず、そして年齢関係なしに、全世代のいろんな人が見る世界になってきていると思います。
一方で、『鉄腕アトム』や『となりのトトロ』など、こういったアニメを最初に作った人はこういう風になると完全に想像していたかというと、そうではなかったと思います。同じように、株式会社ポケモンが今ポケモン(『ポケットモンスター』)というゲームを作っていて、そこに登場するキャラクターたちが世界中で人気ですよね。ポケモンのゲームの中でも「ポケモンカード」というカードゲームがあります。当初、おそらくこのポケモンカードを作った人たちは、ポケモンのゲームそのものよりもカードが高価になる世界が来るなんて考えもしていなかったと思います。
こういったゲームの世界でも、アニメの世界でも、ポケモンの世界でも同様に、なぜこういう流れになってきたかというと、ユーザーが自由にいろいろなコンテンツを作ったり、ファンの方々が口コミで新しい活動を行っていたり、「何か許可を得ることなく様々な創作的な活動をしていたから」というところが大きいと思います。
Bored Apeも、今NFTがあって、1つの世界ではアートとして扱われていますが、もしそのトークンを他の場所に持って行った時に、例えば別のメタバースの中で、Bored Apeが必ずしもそのアート性を持った振る舞いをする必要はないと思います。他の世界ではトラになったり、他のキャラクターになってもいいと思いますし、そういった自由な振る舞いをしていいと考えています。
ユーザーが様々なコンテンツを作ってIPを販売して、というところがNFTの世界の大きな特徴です。これまで登場した様々なIPと同様に、クリエイターが様々なものをたくさん作っていって、それがユーザーや市場にちゃんと評価されれば、きっと人気が出てどんどん大きくなっていくと思いますし、逆に人気が無ければなくなってしまうかもしれません。いろんな運命を辿ることになると思います。
いずれにせよ、こういったコンテンツが自由と裁量を保って拡大できるという土壌を作ることが大事であると思います。そうすることで、非常に大きな成長を遂げることができると思います。
箭内氏:今回Yatさんのお話を通して非常に多くのことを学びました。ありがとうございます。
Web1、Web2、Web3問わずコンテンツを作っていって、ユーザーがそれを自由に取り扱うことによって、非常に大きな世界が生まれるという考えはとても興味深く感じました。
Yat氏:通常であれば、こういったクリエイティビティとは、ある程度の制約が課されている状態に置かれていることが多いです。ですが、コンテンツが提供された後に、エンドユーザーのクリエイティビティに委ねて大きくするというところが非常に面白いと思います。
映画制作で例えると、映画を作りたいと思ったら、どのような映画にするかについては、制作会社であったりプロデューサーであったり、そういった方の権限や考え方に縛られる形で制作が進んでしまうと思います。こういったモノポリーによってクリエイティビティが阻害されてしまう、イノベーションが起きなくなってしまう、というのは非常に惜しいことだと思いますね。
例えば、J・K・ローリングさんも、彼女の作った作品をいろんな出版社に持ち込んでいましたが、そこの担当者に気に入られなくて出版されなかったということが度々起きていたそうです。今、彼女の作品は大衆に評価されてハリー・ポッターというIPが非常に大きな人気を得ています。こういった形で、モノポリーがクリエイティビティを阻害してしまうというところは問題点であると思います。
まさにYouTubeでも同じように、もし自分がハリウッドの映画産業にいたとしたら、YouTube上の素人がいいカメラも持っていない、脚本家もいないのに、はたしてどうやっていい作品を作れるだろうか。ハリウッドを超えたり、映像制作会社を超えたり、そんなことが可能なのかを考えてしまうと思います。
一方で、実際に、YouTubeにはMinecraftのゲームをプレイする人の動画であったり、本当に様々な動画が上がっていると思います。このようにこれからおそらく個人のクリエイティビティがメインストリームになっていき、それに懸けていくことが大事なのではと思います。中央集権的なコンテンツを作っていく仕組みにはある程度限界があるので、個人がこういった限界を突破してコンテンツを作り上げていくことは、非常に勢力があるムーブメントになるんじゃないかと思います。個人が引き起こすムーブメントというものを、正確に言語化するには少し難しいです。このBored Apeもどうやって人気が出たのか、なかなか言語化するのは難しく、たまたまマーケットのタイミングが良かったのか、たまたまファンが訪れやすいタイミングが来ていたのか、正確に振り返るのは難しいと思います。
The Sandboxも同様で、「Second Lifeとかもすでにあったじゃないか」、「ゲームの中で自分の土地を持てるじゃないか」など、いろいろ意見があると思いますが、現状、実際に人気が出ましたよね。気付けばこういう形で大きなムーブメントとなって、ユーザーの心を掴んで、大きなプロジェクトに育っているという状況であると思います。
このように、コンテンツを個人が作って、世界中に提供して、世界中のコンテンツを欲しがっている人、もしくは判断する人たちの手に委ねられて、プロジェクトが拡大していきます。これが何度も繰り返されていくことで、コンテンツもどんどん増えていくのではないかと考えています。
コンテンツも、これまではただただ消費される世界が多かったと感じています。例えばNikeのスニーカーであれば、お店で購入し、ただ履くだけで、スニーカーは消費されておしまい、という流れが多かったと思います。一方、Web3の世界で考えると、こういったトークンやIPは、保有した後も関係性が続くということで、全然違う世界になると思います。
藤本氏:Yatさん、ありがとうございます。最後に、Yatさんから日本の皆さんに向けてのメッセージと、日本国内にAnimocaとコミュニケーションしたい会社がたくさんあるようなのですが、どちらのAnimocaとお話しすれば良いのか迷われている方がいらっしゃるようです。ですので、Animoca BrandsとAnimoca KKの違いについてもお聞きしたいです。
Yat氏:ありがとうございます。Animoca Brandsも日本で活動できることをとても待ち遠しく思っています。
日本国内を見ると、非常に様々な伝統的なカルチャーもある一方で、最新のデジタルカルチャーもすごくたくさんありますよね。SONYであったりNintendoであったり、SEGAであったり、こういったデジタルカルチャーを支える地盤がたくさんある非常に豊かな国だと感じています。NFTが大きくなる市場として、こんなに最適な国はないんじゃないかと思うくらいです。
ただ、一方で、日本におけるビジネスでは、言語的、地理的、文化的な障壁というところが最大の壁になってしまっているんじゃないかと思います。日本以外の海外に住む人にとっては、日本の中でビジネスをするということは、非常に難易度が高いと思います。
だからこそ我々は、Animoca KKという形で、日本国内の活動拠点を立ち上げました。日本では特に、国内に実際に拠点を置いて「日本語を話すことが出来る/日本に馴染みのある人がいる」ということがすごく大事であると思っています。ですので、The Sandboxも日本国内に拠点を置いて、ローカルのコミュニティマネージャーの方がいて、ビジネスをされていると思います。
なので、日本の皆様はAnimoca KK、日本国内のAnimocaとお話ししていただくことで、コミュニケーションを取りやすくなっていると思いますので、ぜひご連絡ください。我々も世界中で大きく活動をしていく一方で、日本国内での活動もどんどん大きくしていきたいと思っています。
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