福岡が世界に向け発信する「福岡県ブロックチェーンフォーラム」レポート<後編>

福岡県Ruby・コンテンツビジネス振興会議と福岡県は2020年8月26日、「福岡県ブロックチェーンフォーラム」を開催しました。

福岡県は、多くのIT企業・スタートアップが拠点を構える日本有数のハイテク産業が盛んな地域です。ブロックチェーンは、AI、IoT、ロボット、ビッグデータに並ぶ第4次産業革命を支えるデジタル技術として注目されています。今後、より実用化が期待されるブロックチェーンに対する認知度を高め、各社がブロックチェーン技術の導入促進につなげられるよう、今回「福岡県ブロックチェーンフォーラム」が開催されました。

こちらの記事では、3時間15分におよび行われた業界の著名人による講演、トークセッションの内容を要約し、前編・後編に分けてお届けします。

後編は、Microsoft Azureを用いたブロックチェーン最新事例紹介、トークセッション「ブロックチェーン分野における福岡の可能性」についてまとめました。

「Microsoft Azureを用いたブロックチェーン最新事例」

登壇者紹介

廣瀬一海(ひろせ かずみ)氏

日本マイクロソフト株式会社 Azure Senior Product Marketing Manager



フォーラムプログラムの二番手は、日本マイクロソフトAzureシニアプロダクトマーケティングマネージャーの廣瀬一海氏による、Microsoft Azureを用いたブロックチェーン最新事例紹介です。

事例紹介に入る前に廣瀬氏はブロックチェーンについて簡単に解説をしました。ブロックチェーンは、複数の企業や個人間で真正性のある共有場所を設ける技術です。実態はネットワークで、共有されたデータはみんなが同じデータを記録します。このデータの記録の仕方は、みんなが持っているデータは正しいとする合意形成(コンセンサス)のルールのもと、みんなの手元に同じ伝票が届くというようなイメージです。データ(台帳)は、常にみんなのデータを照会するため、他のデータ共有者に知らせずして、一方的に削除や更新することができない(P2P:Peer-to-Peer)ネットワークです。

ブロックチェーンの主な4つのユースケース

企業は大きく分けて4つのユースケースで、このブロックチェーン技術を使っています。

Microsoft Azure説明資料

1つ目は、異なる企業間にまたがるビジネスプロセスを行う場合です。例を挙げるとトレーサビリティの分野に使われています。たとえば、冷凍が必要なある商品を製造元から販売所まで管理する場合に、製造元と輸送事業者、問屋、小売店といった異なる複数の事業者の連携で1つのビジネスプロセスを作ろうという場合に使用されるといいます。

2つ目は、複数の企業が協力して1つのデータを処理する場合です。これは金融分野の言葉ですがトレードファイナンスがその例になります。輸出入を行う場合は、さまざまな手続きが必要になります。輸出入のコーディネーターのサイン、船会社のサイン、積み荷に対する保険会社のサイン、経由する各国のサインほか、関税を払う銀行の承認印などなど、これまでは紙やFAXなどを送りあうなどして、一生懸命ハンコを押し合っていたといいます。こういうケースでブロックチェーンは、各プロセスで承認印を押すという業務に活用できるのです。

3つ目は、信頼できる情報源を中継する場合です。わかりやすい例は、証券取引所です。これまで証券取引の板情報は、各証券会社が取引所のシステムに情報を取りに行っているといいます。常に変化する板情報を、各社はものすごい勢いで取りに行かなければなりません。この発想を逆転させて、証券取引所が正しい情報を承認し、各社に配ることで効率を格段に上げることができます。その際の情報の真正性をブロックチェーンで証明するというわけです。

最後は、低価値の手作業のデータ検証手順を行う場合です。例としては、伝票のカーボンコピーやその伝票からPCへの再入力作業等、非効率な手間への活用です。日本企業の多くは社内のデジタル化は進んでいるものの、他社企業等外部とのやり取りになると途端に紙による情報がメインという状況が続いているといいます。それを改善するために、企業間の真正性を担保するブロックチェーンの活用が始まっているのです。

ブロックチェーンは、こうしたユースケースにて、製造、小売り、保険、銀行と資本市場、政府・行政、医療等ヘルスケアの分野で広く使われているそうです。

パブリックブロックチェーンとエンタープライズブロックチェーン

ブロックチェーンには、パブリックブロックチェーンとエンタープライズブロックチェーンという概念があります。

パブリックブロックチェーンは、誰でも参加ができるブロックチェーンです。たとえばビットコインのブロックチェーンには誰でも自由に参加ができます。今日、ビットコインのネットワークに参加しようと思ったら、自宅でビットコインのノード(サーバーのようなもの)をPCで立ち上げて、参加することができます。このように参加権限が自由なものが、パブリックブロックチェーンです。

企業間でブロックチェーンを活用する場合は、企業同士が集まってネットワークを作ることが多く、誰でも参加できる状況は業務に支障をきたすため、こういう場合は承認された限られた企業だけが参加できるコンソーシアムと呼ばれるネットワークを形成します。また、グローバル企業など1社で多数の支社を持つ企業では、自社のみのプライベートなネットワークを形成します。こうした決められた参加者のみが参加する企業向けブロックチェーンをエンタープライズブロックチェーンといいます。

Microsoft Azure説明資料2

マイクロソフトが提供する、Azure Blockchain Serviceとは?

マイクロソフトは、ブロックチェーンについては2015年より企業支援を開始しました。廣瀬氏もまた同年よりブロックチェーンに携わるエンジニアとして、顧客の相談にのったり、コンサルティングをしたりしてきたといいます。この頃から、ブロックチェーンってどうしたらいいの? PoC(概念実証)はどうやってテストしたらいいの? といった様々な声に応えながら技術支援を行い、自身が実際にプログラミングをすることもありました。

すでにブロックチェーンの支援を開始して5年が経ちますが、マイクロソフトはAzureというパブリッククラウドの環境で、Azure Blockchain as a Service(BaaS)サービスを提供しています。

Azure Blockchain Serviceは、Azure上にブロックチェーンの開発・検証・動作環境を提供するプラットフォームです。クラウドを使い、低コストかつ短時間でブロックチェーンの検証や開発を行うことができ、最も短いものでは10分程度で完成させることができます。

ブロックチェーン環境ができたら、アプリ等を作り本番環境として利用することもできれば、不要の際はクラウドなので秒単位課金のためすぐに使用をやめることができるビジネス上のメリットもあるといいます。

Azureは、世界各国60以上のリージョンが用意されていることから、世界展開も容易です。実際に日本と北米や欧州をつないで全世界でブロックチェーンを使用している企業もあるといいます。それを支えるネットワークも、サービスとして同時に提供しています。

また、マイクロソフトはブロックチェーンを開発するさまざまな企業・団体と技術提携しています。代表的な提携先には、イーサリアムやリップル、R3社といった団体があります。Azure Blockchain Serviceでは、エンタープライズ対応のイーサリアム、Hyperledger Fabric、Corda、Quorumほか、さまざまなブロックチェーンのデプロイが可能なテンプレートを提供しています。

さらにマイクロソフトはこの5年間、ブロックチェーン関連の国内のスタートアップとも連携し、エンタープライズの大企業の紹介もしつつ、国内におけるブロックチェーンの普及を思案しながら、実際に開発をしてくれる企業同士をマッチングさせるなど、1つ1つ丁寧にブロックチェーンに関する事例を進めてきたといいます。

そうした成果から、Azure Blockchain Serviceは、すでに全世界で400以上の事例があるといいます。フォーラムでは、IDカード不要で難民がサービスを利用できる国連の取り組みや、ConsenSys・LVMH・マイクロソフトの高級ブランド向けコンソーシアムチェーン「AURA」、JR 東日本らが取り組むMaaS(Mobility as a Service)など、そのうちの代表的なユースケースを多数紹介しました。

廣瀬氏登壇写真

ブロックチェーンがビジネスへもたらすメリット

最後に廣瀬氏はブロックチェーンの潜在的なメリットについてまとめました。

ブロックチェーンには、人と人との介在を避けることにより、効率を上げるというメリットがあります。データをほぼリアルタイムで関係者のみが電子的に利用でき、データとドキュメントの安全な保存を実現します。安心安全なもとでデータを共有しあうことで、企業は効率よく1つのサービスを複数社で提供することができるのです。

ブロックチェーンの導入は、リスクも緩和します。データの耐改ざん性や不正行為の検知等、セキュリティ脅威を低減します。また、コンソーシアムにおける監査証跡を記録することができます。さらにブロックチェーンは情報を分散化するためデータストレージの単一障害点を排除します(ハードディスクが壊れてサービスが停止するようなことがない)。

ブロックチェーンによる透明性と信頼性から、ビジネスのスピードを向上させることもできます。少なくとも伝票の再入力等がなくなることで、かなりの効率化が図れます。

こうしたブロックチェーンの特徴、導入事例が、マイクロソフトのエンタープライズ向けブロックチェーン事業の特徴であると廣瀬氏はいいます。新しいビジネスに対してより効率的にビジネスを構築していくことができるのが、ブロックチェーンであると締めくくりました。

トークセッション「ブロックチェーン分野における福岡の可能性」

登壇者紹介

正田英樹(しょうだ ひでき)氏

株式会社chaintope 代表取締役CEO

藤本真衣(ふじもと まい)氏

株式会社グラコネ 代表取締役

設楽悠介(しだら ゆうすけ)氏

株式会社幻冬舎「あたらしい経済」編集長



登壇者集合写真

フォーラム最後は、特別対談に登壇した株式会社幻冬舎「あたらしい経済」編集長の設楽悠介氏がモデレーターを務め、スピーカーに株式会社グラコネ代表取締役でありミス・ビットコインの愛称で世界的に有名な藤本真衣氏と、福岡を拠点とする株式会社chaintope代表取締役CEOの正田英樹氏を迎え、「ブロックチェーン分野における福岡の可能性」をテーマにトークセッションが行われました。

まずは自己紹介からスタートしました。

藤本氏登壇写真

2011年12月15日が記念日という藤本真衣氏は、この日、初めてビットコインを受け取り、暗号資産のコンセプトに感動したといいます。その時から、ビットコインや暗号資産を広めるために啓蒙活動を始めたといいます。

以来、藤本氏は自分の会社を経営しつつも、GMOインターネットや暗号資産取引所BITPointを始め、多数の企業にてアドバイザー等を務め、現在も啓蒙活動中であるといいます。藤本氏のブロックチェーンのように分散化されたディセントラライズド(非中央集権)な性格に理解のある企業が、一緒に業界を盛り上げようという考えから、藤本氏がさまざまな場所で啓蒙活動することをみんなで応援してくれるようになったといいます。

正田氏登壇写真

一方、chaintope代表取締役CEOの正田英樹氏は、福岡県飯塚市にある九州工業大学を卒業し、そのまま現在取締役会長を務めるハウインターナショナルを創業しました。事業としてクラウドシステム構築サービスや人の交流を応援するプラットフォームなどを提供する中、5年ほど前に、これまた飯塚市にある近畿大学産業理工学部の山﨑重一郎教授からビットコイン、ブロックチェーンの研究をやらないかと話を持ちかけられましたが、マウントゴックス事件があったことなどから、怪しいものとして疑っていたといいます。

しかし、技術者らとブロックチェーンについて話をしていると「これは面白い」と盛り上がることばかりでした。気がつけば研究にのめり込み、早期から社会にブロックチェーンを実装することを目標に取り組み始め、2016年にはブロックチェーンに特化した事業を進めるべくchaintopeを設立したといいます。

正田氏には、ここでもう少しchaintopeの事業について解説をいただきました。

chaintopeは、ブロックチェーンを用いた自律分散型の新たな社会構築に向けて、さまざまな分野におけるブロックチェーン実装を目指しています。事業としては、独自のパブリックブロックチェーン「Tapyrus(タピルス)」というエンタープライズ向けのブロックチェーン基盤を提供しています。

ブロックチェーン基盤を独自開発した理由は、現在の日本はGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)ほか、ほとんど米国シリコンバレー発の基盤やサービスを使っている利用者に過ぎず、正田氏は、日本発で、できれば福岡という地域発で基盤技術を世界に向けて発信し、勝負したいという思いからだったといいます。

現在、chaintopeはTapyrusを使い他社と共同で、大手スーパーのトレーサビリティ、地域通貨の発行、電力、CO2削減といったSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な 開発目標)の社会課題解決等に取り組み、より具体的な事例を作っている状況だといいます。

ブロックチェーンの世界トレンド

登壇者集合写真2

トークセションのテーマは、「ブロックチェーン分野における福岡の可能性」ですが、その前に藤本氏からブロックチェーンの世界的トレンドについての紹介です。

藤本氏は最初に、8月24日・25日開催された金融庁と日本経済新聞社が主催するブロックチェーン技術の健全な発展と新規ビジネスへの取り組みを議論する国際会議「BG2C FIN/SUM BB」における麻生太郎財務大臣の発言を紹介しました。

麻生財務大臣は「ブロックチェーンの活用はデジタル資産の分野だけではなく、デジタルアイデンティティーや貿易金融など、より広い分野で重要な役割をはたす」と語っています。また、ブロックチェーンは「伝染病などのリスクにも対処できる技術である」と明確に述べました。

藤本氏は、医療関連のブロックチェーン技術の応用は注目するポイントの1つであるといいます。感染症をトラッキングすることで感染拡大を防ぐといったブロックチェーンを応用した技術は、コロナ禍において大いに役立っているといいます。

続いてのトレンドとして、韓国のブロックチェーン企業MediBlocが韓国最大の通信事業者KTとビル&メリンダ・ゲイツ財団の感染症対応研究コンソーシアムに参加した事例を紹介しました。コンソーシアムでは、3年をかけて「AI、ビッグデータ、通信データ拡散経路予測調査などのICT技術を利用した感染症の自己診断」に関する研究を実施するそうです。

実は、人々の健康など医療に関する個人情報は、金融に関する個人情報よりも裏市場において高く取引されることもある情報といいます。個人情報のなかでも健康に関連するものは特にプライベートなものであり、大切な情報です。そこでブロックチェーン技術を活かした仕組み作りにコミットすることで、MediBlocはコンソーシアムに参加することになったのです。

コンソーシアムでは、医療データ交換システムの設計と構築に注力し、ダイナミックな同意システムを利用してより高度なパーソナル・ヘルス・レコード(PHR)制度を推し進めていく予定で、医療データの共有をより円滑にすることも目指しているそうです。また、MediBlocはブロックチェーンネットワークと患者同意サービスを利用したデータ共有システムも開発する予定といいます。将来は、大切な健康情報は自分で管理をし、情報を必要とする企業に対しては個人の同意を得て使用を許諾する仕組みがブロックチェーンによって可能になるといいます。

また、藤本氏は「DeFi(ディファイ)」にも注目しているといいます。DeFiは「Decentralized Finance」の略で、日本語にすると「分散型金融」となります。まだ社会実験という側面もありますが、イーサリアムのブロックチェーン、スマートコントラクトをベースに構築されることが多いDeFiは、多くのDeFiプロジェクトが立ち上がったことにより、イーサリアムの取引量が過去最高を記録するという現象が起きるほどになっています。

医療については情報を分散・保存、DeFiについては中心がいない金融機関が実現するなど、これまでにはない社会の変化が伺え、面白いトピックだといいます。藤本氏は、今後に注目していきたいと語りました。

世界的には、いよいよブロックチェーンに関する事例は出そろってきた感があると述べるモデレーターの設楽氏の意見に対し、正田氏は新型コロナウイルスの感染拡大により世界は危機的状況に陥り、かえってそれがブロックチェーンを利用する機会を増やし、結果、社会実装を加速させることになったのではないかと分析をしました。

日本の強み、福岡の強みとは何か?

藤本氏と正田氏はブロックチェーンについて解説する中で、特に日本の強み、福岡の強みとなる事例について紹介をしました。

講演資料

藤本氏は日本の強みとして、アニメ、マンガ、ゲームなどのデジタルアートの売買サービスを提供するAnique(アニーク)の事例を紹介。Aniqueは、ブロックチェーンのNFT(Non Fungible Token)を使って、「デジタルだけど世界でたった1つ」という所有権を証明できるデジタルアートの販売を行っています。現在、「進撃の巨人」や「攻殻機動隊 SAC_2045」など、世界中にファンのいる人気作品を取り扱っています。

デジタルアートの保有者は、その権利を売ることもできます。また、Aniqueのサービスは、利用者間の二次流通を含め、売買金額の一部がデジタルアートの制作者に還元される仕組みを持ち、クリエイターの創作活動を応援することができます。藤本氏は、NFTによる所有権の売買はいくつか存在するが、Aniqueのデジタルアートは制作者に還元できる仕組みが注目ポイントといいます。

講演資料2

一方の正田氏は、福岡の強み、飯塚市の強みとして、福岡県飯塚市の長崎街道を中心とした古民家群を活用したブロックチェーンストリート構想について紹介しました。ブロックチェーンストリートは、飯塚市幸袋の旧伊藤伝右衛門邸前の長崎街道を中心とした地域の古民家を再生し、コワーキングスペースやシェアオフィス、宿泊施設などを展開する計画です。国内外のブロックチェーンエンジニアや企業が連携できる環境を整え、ハッカソンや技術者の勉強会など、イベントを開催しているといいます。

また、福岡は地域の風土として技術者間で教え合う活動が盛んといいます。2011年から行っている「e-ZUKA Tech Night」では、近隣の大学を含め、日本からだけではなくシリコンバレー等からもスピーカーを招き、これまでに50回の開催、のべ3000人が参加しているそうです。

最近では、ブロックチェーンに特化した技術者のコミュニティ「GBEC(ジーベック)」という活動を行っており、GBECでは勉強会開催のほかにネットを使って技術者向けに「動画で学ぶブロックチェーン」など動画も全国配信しており、ブロックチェーン技術の啓蒙活動を行っています。現在、コミュニティはSlack参加者が約340名という規模といいます。こういった活動が、福岡発という起爆剤になっているそうです。

日本そして福岡が世界で勝つためには

日本が世界で勝つチャンスはなかなかないという正田氏。インターネットの世界は、完全にアメリカのシリコンバレーを中心に、最初に研究開発や情報が出てくる世界になっているといいます。サービス等が東京にくるのが、(最近は縮まっているというが)2年遅れぐらいという状況です。インターネットに関しては、福岡にくるのはさらにそのあとになる。こうなってくると、もはや世界に勝つといったレベルではなくなっている、日本はそのサービスや技術を利用者として使うしかないと正田氏は語ります。

ところがブロックチェーンは、まったくインターネットの世界とは異なるといいます。GAFAが進めてきたサービスや技術は、ブロックチェーンの本質とは真逆のことをやって勝ってきました。GAFAは、自分たちにすべての情報を集め、それを分析した上でビジネスを広げてきたのです。

ブロックチェーンは、情報を手元に置き、自分のもとに取り戻します。自分で鍵を管理するという本質があります。GAFAを始めシリコンバレーの大企業は技術的には進んでいるが、ブロックチェーンの本質から、すぐにブロックチェーンを取り込むことは簡単ではありません。むしろ、これまでの仕組みを壊さなければブロックチェーンには進めない立場になるため、ブロックチェーンの導入は躊躇せざるをえません。

こういったことから、インターネットビジネスにおいてはシリコンバレーが圧倒的有利でしたが、ブロックチェーンにおいては、まだまだ日本や福岡の企業に勝ち目があると正田氏は見ているといいます。

講演資料3

その他のポイントとして、今後は信頼の見える化(社会関係資本)が重要になると正田氏は続けます。信用・信頼という言葉があるが、一般的に金融機関における信用調査というと、「家は持っているか」「車は持っているか」「ローン・借金はあるか」「いくら預金があるか」というように個人の周辺にある資産の度合いを信用としています。

もしその人が飯塚市という地域にどれだけ貢献していても、周りの人からどれだけ感謝されていても、信用というとその人の金融資産だけが対象になってしまうのが現状で、それらが評価されることはありませんでした。それをブロックチェーンによって、個人の感謝や共感、応援といった感情など、日々の素晴らしい行動を見える化し、それを少しずつ積みあげることで、その人の本当の信用・信頼が見えてくるといいます。

信頼を見える化することで、その人がお金を持っていなかったとしても、その人が何かに挑戦をしようとしたときに、その信用を担保に応援することができる世界観が実現できるだろうといいます。現在、正田氏はその世界観をMasachainと称し研究中であるといいます。

また、まだ法律等が整備されていないという課題もありますが、さらにMasachainの仕組みを応用した地方創生トークンコミュニティモデルという構想を正田氏は解説します。

講演資料4

まずベースにMasachainによるコミュニティがあります。コミュニティ内では、ブロックチェーンによって発行されたコミュニティコインによって互いを評価する、トークンによる地域における経済の循環コミュニティを形成します。

コミュニティコインを利用したSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)のような地方創生のための新しい資金調達の仕組みも構築します。ここでは、多くの投資家に少しずつ投資をしてもらい、自分たちの地域をよりよくするために資金調達をしていきます。STOなど新たな仕組みは小口の証券により、従来の資金調達よりもより流動性の高い調達が可能になるといいます。

この仕組みを使い、さらに自治体と協力した新しい地方創生事業を立ち上げ、街作りを行うというのが地方創生トークンコミュニティモデルです。これらは、法が整備されることで、実現可能になるといいます。このモデルによって、本来、素晴らしい行いをしている人たちが新しいことに挑戦しやすくなる仕組みとして提供できれば、日本的な力、強みになるでしょうと正田氏は語りました。

さらに藤本氏は、福岡を盛り上げる方法としてIEO(イニシャル・エクスチェンジ・ オファリング)による資金調達も有効ではないかといいます。これまで、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)では詐欺等もあり日本では法律的にも社会的にもICOの実施は難しい状況にありました。

しかし、IEOは企業やプロジェクトが発行するユーティリティトークンを暗号資産取引所が代わって発行、上場し、資金を調達します。ライセンスを受けた取引所が間に入ることでその安全性を担保します。これは、一企業や団体が株式等で投資するのとは異なり、ユーティリティトークンを購入することで、個人も含めて応援したい人が集まって「みんなで応援する」ことができます。

奇しくもコインチェックが2020年8月25日、日本初となるIEOの実現に向けた共同プロジェクトを発足しました。IEOは、少額からでもみんなで一丸となって企業・プロジェクトを応援することができる仕組みなので、地方自治体などを巻き込みながらやることで、「みんなで応援する」というIEOの本来の良さを最大限に活用できます。ブロックチェーン企業が多く、県や市が支援体制にある福岡では、IEOは特に適した資金調達方法ではないかと藤本氏はいいます。

また、藤本氏も正田氏のいう「社会関係資本」の分野には興味があるといいます。これからは資産がどれだけあるかということで人を信用するのではなく、CO2削減にどれだけ貢献したとか、自然環境に優しいもの選ぶといった活動など、社会への貢献度を価値とし評価されるべきであると藤本氏は常に考えており、その見える化はブロックチェーンによって可能になると思っているといいます。お金では買えないものが評価される社会を実現させてくれるのがブロックチェーンであると信じているといいます。

藤本氏は最後に、好きな日本語に「三方よし」という江戸時代に近江商人が大切にしてきた言葉を紹介しました。

日本がこれから世界に向けて、どういうポテンシャルを発揮できるかを考えたときに、「買い手よし売り手よし世間よし」という三方よしを考えることが得意というのが、日本人の大きな強みになるのではないかといいます。社会関係資本の分野においてブロックチェーンを使い、三方よしの考え方でプロジェクトを増やしていくことは、これからの日本の強みになるのではないでしょうかと、藤本氏は締めくくりました。

講演写真

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