福岡が世界に向け発信する「福岡県ブロックチェーンフォーラム」レポート<前編>

福岡県Ruby・コンテンツビジネス振興会議と福岡県は2020年8月26日、「福岡県ブロックチェーンフォーラム」を開催しました。

 

福岡県は、多くのIT企業・スタートアップが拠点を構える日本有数のハイテク産業が盛んな地域です。ブロックチェーンは、AI、IoT、ロボット、ビッグデータに並ぶ第4次産業革命を支えるデジタル技術として注目されています。今後、より実用化が期待されるブロックチェーンに対する認知度を高め、各社がブロックチェーン技術の導入促進につなげられるよう、今回「福岡県ブロックチェーンフォーラム」が開催されました。

 

フォーラムは、ブロックチェーンストリート構想を掲げ、関連企業の集積を目指す福岡県飯塚市の「嘉穂劇場」にて行われました。コロナ禍での開催となったイベントは、入場者数を制限し、ソーシャルディスタンスを保ちながら筑豊の歴史を体感できる国の登録有形文化財である「嘉穂劇場」をリアル会場に、参加者を定員150名に限定し、その他の参加者は登録することで誰でも参加ができるオンラインによる方法でフォーラムが開催されました。

 

こちらの記事では、3時間15分におよび行われた業界の著名人による講演、トークセッションの内容を要約し、前編・後編に分けてお届けします。

はじめに

フォーラム開催にあたり、主催の福岡県から小川洋(おがわ ひろし)県知事が、共催の飯塚市から片峯 誠(かたみね まこと)市長が、それぞれ開会の挨拶を行いました。司会進行は、RKBラジオのDJ・TOM G氏です。

 

福岡県は、毎年多くのエンジニア・クリエーター・デザイナー等の人材を輩出することでも有名です。また、プログラミング言語Rubyの技術者を豊富に有する土壌から、福岡県では、2012年7月に産学官で「福岡県Ruby・コンテンツビジネス振興会議」を設立し、コンテンツ産業およびRubyを核としたプラットフォームを中心にIT産業の振興に取り組んできました。

 

そうした背景により、福岡県には優れた技術を持つブロックチェーン企業が多数集積しています。特に、飯塚市は九州工業大学や近畿大学のキャンパスがあり、優秀なITエンジニアを数多く輩出している地域です。

 

福岡県としては、この地域の強みを最大限に生かし、飯塚市と一体となり、ブロックチェーン企業の育成とその集積に取り組んでいきますと小川県知事からの挨拶がありました。

 

また、飯塚市は2019年8月に心豊かな暮らしが体験できる古民家と先端IT技術の融合によるブロックチェーン技術者・企業の集積を目標に「飯塚市ブロックチェーンストリート」構想を立ち上げました。同市は、同地域の古民家を再生し、コワーキングスペースやシェアオフィス、宿泊施設などを展開しています。

 

2019年12月にキックオフセミナーを開催し、2020年7月には、同フォーラムの登壇者でもあるchaintopeの正田英樹氏を始めとするIT企業と連携協定を結び、行政が交付する各種証明書の電子交付に関する実証事業に取り組み始めました。

 

片峯市長は、ブロックチェーンは先進的な情報技術であると共に、自律分散とチェーン、信頼を基盤としたつながりを実現するものであり、これからの街作りや地方都市のあり方に大きな影響を及ぼす理念であると認識しているといいます。飯塚市は、ブロックチェーンの拠点化を目指すと共に、ブロックチェーン型の先進都市を創り上げていきたいと考えていますと述べています。

特別対談「ブロックチェーンがもたらす未来」

登壇者紹介

上田岳弘(うえだ たかひろ)氏

芥川賞・三島賞作家、会社役員

設楽悠介(しだら ゆうすけ)氏

幻冬舎「あたらしい経済」編集長

 

 

ビットコイン小説「ニムロッド」はなぜ生まれたか?

フォーラム最初のプログラムは、ブロックチェーンをモチーフに書かれた小説「ニムロッド」で第160回芥川賞を受賞した上田岳弘氏と、幻冬舎のブロックチェーン専門メディア「あたらしい経済」編集長の設楽悠介氏による「ブロックチェーンがもたらす未来」をテーマに語られた特別対談です。

 

対談では冒頭に、そもそも上田岳弘氏がブロックチェーンを知るきっかけになったエピソードや、小説「ニムロッド」を書いたいきさつについて伺うことができました。

 

「ニムロッド」はビットコインをメインモチーフにした作品であり、ビットコインのマイニング作業を行っている会社員の話が書かれています。上田氏は、2012年、2013年の頃にビットコインの存在を知るもののしばらく忘れていたといいます。

 

2014年に暗号資産(仮想通貨)取引所マウントゴックス(Mt. Gox)が破綻したビットコイン流出事件があり、世間にも知れ渡りましたが、そこで終わったように映ったといいます。しかし、ビットコインの価値はその後も徐々に上がり、2017年から2018年にかけて1BTCが100万円を超えるようになったことから、上田氏は改めてビットコインについて詳しく調べたそうです。

 

ビットコインの開発者の名前がサトシ・ナカモトであり、正体不明ということを知り、提唱者が日本人(の名前)で時価総額も10兆円を超えるくらいの規模になるビットコインを、上田氏は実態のないものが価値を持つということが不思議でならず、この事実は作家にとってチャンスであると思ったといいます。

 

そこで、日本人の中本哲史という同姓同名の主人公をしつらえて、サトシ・ナカモトが提唱したビットコインを掘るという小説を自然に書けるのは日本人しかいないと思い、そこにある種のビジネスチャンスを感じて「ニムロッド」を書いたといいます。

 

それがもしジョンなんたらといった外国人が提唱する論文だったらどうしていました?という設楽氏の質問に対して、「それだったら書いていないですね」と即答しました。謎の人物が論文を発表し、それがきっかけで始まったものが10兆円の価値を超える。それが世界に広がる。上田氏は、ビットコインの提唱から今日の価値のあり方は、文学的であると感じたといいます。

Webメディア「あたらしい経済」に込められた思い

一方、設楽氏は、最初は知識としてビットコインを知り、マウントゴックスの流出事件の頃は投資の部分に興味を持ったといいます。2017年頃にはICO(イニシャル・コイン・オファリング)バブルで詐欺も多くなり、世の中がいっきにビットコインのような暗号資産を作り始め資金調達をするということが流行りました。設楽氏は、その時期にビットコインについて調べ始め、サトシ・ナカモトの論文を読んだといいます。わずか10ページぐらいの論文でしたが、その内容に感動したといいます。

 

そこで、より調べていくと、ビットコインはお金だけの話ではなく、ビットコインを動かしているのはブロックチェーンであることに気づかされます。これは、デジタル通貨以外にも使えるということがわかりましたと、設楽氏は語りました。

 

設楽氏は、それがきっかけでメディアを立ち上げ、暗号資産やブロックチェーンに関する情報をより正確に発信したいという思いで始め、そしてこの世界にのめり込んでいったそうです。それが、現在、設楽氏が編集長を務めるメディア「あたらしい経済」です。

 

上田氏は、「あたらしい経済」というメディアのタイトルに込められた思いを設楽氏に尋ねました。

 

メディアを立ち上げようと決意した当時、他の仮想通貨メディアの多くは「○○コイン」「△△チェーン」という名前だったといいます。その中には正しい情報を発信しているメディアもありますが、怪しいメディアもそのような名前を使っていたといいます。設楽氏はそことの差別化を図る意味でも違うものにしたかったといいます。そして、ブロックチェーンは金融だけではないということと、ブロックチェーンが世の中に張り巡らされたらどんな未来になるかと考えたときに「あたらしい経済」、ニューエコノミーが来ると思ったことからサイト名が決定したそうです。

インターネットとブロックチェーンの関係性

インターネットの本質は、コピーと中抜き(生産者と消費者を結ぶなど)だという上田氏。しかし、インターネットの技術は、仲介者を省略はできるが情報が「真」であることが保証できませんでした。それがブロックチェーンによってできるようになったことが大きいと語ります。

 

インターネットは情報を民主化したと表現する設楽氏は、上田氏の発言を具体的な例で示しました。たとえば、自分のパソコンから上田氏にデータを送る場合、それは自分のデータがコピーされて相手にも届くことを意味しています。

 

同じようにお金をデータとして送る場合、自分の1万円を上田氏に送り、コピーが自分の手元にも1万円として残っていたら、これは大問題です。それを正しく価値の取引ができるのがブロックチェーンです。ブロックチェーンは、価値移動が可能になる技術ですと設楽氏は語ります。しかも、分散型で中央管理者を必要としない仕組みに、インターネットとは違った可能性があります。

 

中央管理者のいない自律したシステムであるブロックチェーンの近未来の可能性は、逆に中央管理者がブロックチェーンを使い、システムの健全性や透明性を担保しアピールする時代が来るのではないかと設楽氏は予測します。

中央集権型と分散型の戦い

設楽氏は、上田氏の「ニムロッド」の次に発表された作品「キュー」は絶対に読んだほうがいいと、上田氏の小説を紹介しました。小説の帯等ではうたっていないが、これは完全にブロックチェーンの話だと設楽氏は勝手に思っていますと語ります。

 

「キュー」は人類がシンギュラリティを迎えるまでに、世界は中央集権型に向かうのか、はたまた分散していくのかを描いている作品だと思うんですよね、と設楽氏自身の感想を述べました。

 

上田氏は、それを補足するように簡単に「キュー」について解説をしてくれました。登場するのは概念上の国で、等国と錐国。二国は長い間いろいろな戦いを繰り広げてきた関係。最終戦争が終わって、近未来で決着がつくという内容の小説といいます。

 

錐国はいわゆる中央集権型の社会体制を是とするグループ、等国は分散型の社会を是とするグループ、というすみわけで、まさに等国はブロックチェーン的な中央ではなく周辺に権限や富をどう分散するかを考えている国といいます。その闘争を描いている小説であるとのことでした。

 

設楽氏は、まさに現代社会は、そのような闘争になっているともいえるのではないかといいます。アメリカと中国の貿易戦争のような闘争もあれば、中国製のスマートフォンアプリを巡って国が争うということもあります。また、Facebookの暗号資産Libra(リブラ)の問題もあります。一企業や一アプリが、一国の人口を超える数のユーザーを獲得することで、国をも脅かすような状況になりかねない新たな時代を迎えているともいえるのではないかといいます。

ブロックチェーンはこれからの社会に何をもたらすか?

ずばり、50年後ぐらいはどうなっていると思いますか?と設楽氏は上田氏に尋ねます。

 

その前に設楽氏は、行政についての問題点を指摘しました。最近、設楽氏は引っ越しをしたところ、転居届や住所変更、マイナンバーカードは別に住所変更を行わなければならない等々、結構、手続きが大変だったことを挙げました。そういう面倒な行政の手続きの部分にこそブロックチェーンはなじむと思うんですよね。改ざんされないし、スピーディーにできるし、行政との相性は非常にいいと思いますと、設楽氏は語ります。

 

もしかしたら行政がやらないまでも、(手続きに関する仕組みに)コネクターをたくさん持っておいて、そこをつなぐ中間アプリのようなものがあって、サイトで何か手続きを行うと、その情報がすべて飛んでいき、その間のやり取りを自動で行ってくれるようなことは、将来あり得るのではないかと上田氏はいいます。国や自治体がやってくれればいいが、さすがにそこまではやってくれないような気もすると補足しました。

 

設楽氏は、政治システムとブロックチェーンという可能性もあるのではないかといいます。これだけ人類が多いと、必ずしも最高のものにはまとまらないのではないか。しかし、世の中は変化していないようで実際には変わってきてもいる。はたして民主主義とされてきたものは、本当に民主主義なのか?といったことも含めたところを、テクノロジーがカバーしていく時代が来ると思いますと語ります。

 

インターネット技術では「スピードが上がりますよ」ということしかできなかった。ネット選挙にしたところで、いわゆる投票が便利になりますよというぐらいで、その投票と集計に間違いがないことを証明することはできない。それがブロックチェーンの導入によりできてしまいます。

 

すでに投票システムにブロックチェーンを使うものは海外には出てきていますが、政治システムの未来の話になると、これがブロックチェーンだけに限らず、投票に(コンセンサスプログラムのような)プログラムを入れていくというのは考えられると思います。そう考えるとワクワクしますね。

 

選挙に関するコスト、投票するコストが今は高すぎるので、頻繁にはできないし、1つ1つのトピックについても問えない。しかし、ブロックチェーンによって投票に対するコストが大幅に下がれば、それが正しいかどうかは別問題ですが細かいことに対しても民主的に決定することが可能になると上田氏はいいます。そうなると、いろいろな発想や可能性も見えてくるのではないでしょうかと上田氏はまとめました。

 

設楽氏は、すべてデジタル化しブロックチェーンで保証できれば、投票の信頼性を増すという効果以外にも、それまでの投票履歴もトレースできるなど、それらのデータの別の使い方もある気がしますねといいます。プライベートなデータやライフログみたいなものは、国に任せたり、一企業に預けたりするのはいやだから、自分で管理したいというようなこともブロックチェーンでは可能になります。

 

自分で管理できるのであれば、僕らの医療カルテであったり、学歴や経歴であったり、そういった大切な情報も預けられるようになるし、預けなくてもいいといった選択肢もまた広がっていくんじゃないかと思います。

未来の出版物とブロックチェーン

また、アートやエンターテインメント、それこそ上田氏の小説や僕らの出版もブロックチェーンによって可能性が広がるのではないかと、設楽氏はいいます。

 

ブロックチェーンのNFT(Non Fungible Token)という1つしか存在しないトークンを発行することで、1人しか読めないという小説もできますねと補足する上田氏に対して、次の作品で本当にやってほしいですねと設楽氏はお願いをしつつ、1人しか読めないけど、単価が100万円ということが成立しますねと続けました。ブロックチェーンであれば、次の人に価値を移転することができるので、売買することで実質ほぼ無料で読めるみたいなこともできるし、また転売の都度、作家にもいくらか収入が入ってくるような仕組みもブロックチェーンならできますねと結びます。

 

これまでのような本をたくさん印刷して何万部も売れたというベストセラーもありですが、ある意味、ブロックチェーンでバケツリレーのように1人ずつしか読めないけど、読み継がれていって10万人が読んだというのとでは、世の中に対して作品が与える影響や作家の影響は、何か変わってくると思うんですよね。そういう世界も面白いですねと設楽氏はいいます。

 

元々、紫式部が源氏物語を書いていた時代は、そういう世界ですよねという上田氏。誰かが、彼女が書いた物語が面白いといって、作品が何人かに渡っていって、書き写されたりしながら世の中に広まっていくという。そういう世界に、近いといいます。その後、活版印刷という技術が発明されて、たくさんの人に読まれるようになりました。そのやり方が、ここ何百年か続いていますが、ブロックチェーンの発展によってまた、先祖返りするようなことが起きるんじゃないでしょうかねと続けます。

 

ブロックチェーンはそれも魅力的な部分で、分散型になることによって時間を戻すようなところがある。究極、世の中を村社会に戻していくような、社会にブロックチェーンをちりばめると、そういうことになるんじゃないかと思っています、と語る設楽氏。それが分散型の持っている本質ではないかと、上田氏はまとめました。

 

より大規模な中央集権ではなく、各地方が地方の特色を持ったまま、発展していくことをなし得ることがブロックチェーンでは可能になる。そこが非常に楽しみであり、ワクワクする要素であると上田氏はいいます。

withコロナの現代で起こっていること

上記のようなことが、コロナ禍で不要不急の移動はするなといった緊急事態宣言後、より加速している気がすると両者はいいます。安いコピーを大量にばらまくのではなく、1つの価値を練り上げていく方向に、あらゆる活動がシフトしていくのではないかという空気を少し感じていると上田氏は続けました。

 

インターネットによって誕生したプラットフォームでは、YouTuberやインフルエンサーと呼ばれる人気者が多数登場しているが、オープンなプラットフォームからは、生まれるものもあれば、生まれないものもあると感じているといいます。

 

上田氏は、演劇が好きで歌舞伎なども観劇するが、ああいった錬成された現場、女性が出演できないから女形(おんながた)が発生するような、制約とクローズドな部分があるからこそ誕生するものは、今のYouTubeのようなオープンな場からは発生しないと思いますと上田氏はいいます。逆に、ブロックチェーン的な概念のもとでは、一定性の中で初めて成立するような芸術や活動はあるのではないかといいます。インターネットでは発生することがなかったものが誕生するプラットフォームをブロックチェーンで作ることが、将来的なことをいうと未来につながっていくものなのではないかと上田氏はまとめました。

 

一方で、コロナ禍で並行して感じたのは、誰が何をするかを決めることは重要で、意外と中央集権は大事だなということでしたと、設楽氏はいいます。しかし、それはバランスよく間を取っていくことも大事で、誰かリーダーを立ててアナログに信頼をおいて進める部分と、分散化してシステムが補完してくれる部分が重要といいます。いいバランスですみ分けされると、世の中がもっとよくなるんじゃないかと思います。先ほどの例では、YouTubeもあっていいし、新しいプラットフォームもあっていいというバランスですねと、締めくくり、特別対談は幕を閉じました。

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