暗号資産業界で求められるコンプライアンス人材とは?

業界で活躍する方にお話を伺い、暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーン業界に関わる人々の姿をお届けするインタビュー。

今回は、弁護士の水井氏に暗号資産業界で求められるコンプライアンス人材について伺いました。

水井 大(みずい だい)氏
弁護士法人淀屋橋・山上合同(本稿時点で出向中) 弁護士
大阪弁護士会研修「暗号資産の基礎と諸問題」、大阪商工会議所主催BLOCKCHAIN MEETUP in OSAKA「法律面から見た暗号資産の今」講師。
主な著作に「なりすましによる暗号資産流出事案における対応」(金融法務事情No.2134(2020年3月25日号)、「リーガルテックの概要と利用上の留意点(旬刊経理情報No.1590(2020年10月1日号)、「金融分野における昨今のRegTech/SupTechの動向」(金融法務事情No2150(2020年11月25日号)ほか多数

しんがり主義

一般にコンプライアンスは、法令、自主規制規則、社内規程のほかにも、社会規範を遵守しステークホルダーからの合理的な要請に応えることを指す概念とされています。そしてコンプライアンス・リスクは、上記のコンプライアンスの実践に失敗することで生じる法的責任、行政・司法上の不利益処分、経済的損失、そのほかに利用者等からの信頼(レピュテーション)の毀損(きそん)をこうむるリスクを含みます。

そのようなコンプライアンス・リスク管理を所轄する「コンプライアンス」部門では、暗号資産(仮想通貨)交換業を規律する資金決済法、犯罪収益移転防止法の各種法令に加え、自主規制団体{日本暗号資産取引業協会(JVCEA)}が策定する、利用者保護(苦情、広告、適合性、受注管理等)、不公正取引、AML/CFT(マネーロンダリング及びテロ資金供与対策)、分別管理、ウォレット管理、システムリスク管理等の自主規制の準拠が求められています。

また、暗号資産の販売所・取引所といった従前のビジネスモデルを基礎としつつ、暗号資産交換業者のビジネスモデルも多様化・複雑化してきました。これからのビジネスモデルでは、暗号資産交換業に関する業規制のほか、銀行法、信託法、金融商品取引法、資金決済法のうち資金移動業や前払式支払手段といった他の金融規制も把握する必要があります。特に昨今では、AML/CFTにおける国際協調を推進するFATF(金融活動作業部会)ガイダンス(トラベルルール)への対応が検討されており、こうした国際的な動きにも注視する必要があります。また、主にアート作品やゲームアイテムのトークン化で注目を集めるNFT(ノンファンジブルトークン)領域では、著作権や追及権など知的財産権分野にも横断しており、このように幅広い法規制を意識せざるを得ない場面が多くなってきたと感じています。

暗号資産業界におけるコンプライアンス人材には、他の業態に比べて、このように蜘蛛の巣のように張り巡らされ、ときにその輪郭がアメーバのように変化する「ルール」を常時アップデートしていくことが求められているといえます。ディフェンスの最終ラインに位置するコンプライアンス人材がこれを怠ると事業の根幹を揺るがす恐れがあり、コンプライアンス人材にとっては「しんがり主義」の矜持が必須のマインドセットとなるでしょう。

積極的なリスク・マネジメント

語弊を恐れずにいえば、暗号資産を扱うような新規の業態では、コンプライアンス・リスクはゼロにはなりません。事業部門の提案や相談に対し「リスクがあるためできない」と安易に答えを導き出すようなことがあってはならないでしょう。つまり、AML/CFTにおけるリスクベース・アプローチの考え方に似ていますが、とりわけ暗号資産業界では、コンプライアンス・リスクを積極的に制御(マネジメント)する姿勢が強く求められていると感じています。

そうした、いわゆるリスク・マネジメントの手法として、例えば下表の「コンプライアンス・マトリックス」の考えが浸透してきました。2020年5月に標準規格「ISO31022:2020 リスクマネジメント-リーガルリスクマネジメントのためのガイドライン」が発行され、これを機にミニマム・スタンダードとなりつつあります。

(リスク・マトリックス図)

縦軸が「Risk Impact(リスクから生じる影響)」、横軸が「Risk Likelihood(リスクの起こりやすさ)」の評価軸です。コンプライアンス部門は、両評価軸の観点からリスク・スコアを付け(リスクの特定・評価)、それに見合ったリスク低減措置(ときには事業推進しない判断含め)を講じるといった、プロダクトや利用者を起点する思考様式を内容としています。

このような思考様式は、実際のどのような業態にも当てはまりますが、暗号資産交換業においても、コンプライアンス・プログラムの計画・実行、社内規程等の策定や整備、AML/CFTに係るモニタリング業務、広告審査に係る業務、新規事業開始にあたっての事業部のサポート・牽制判断等のあらゆる業務で通用します。

例えば新規事業を行おうとした際リスク指数が低いと判断できれば、そのリスクはゼロでないにせよそれに見合ったリスク低減措置を講じることを提言して適切にリスクテイクし、スピード感をもって事業を推進していく。しんがり主義とは一見相反するように見えますが、(待ちの姿勢でなく)積極的にリスクをマネジメントできれば、絶大な信頼を獲得することに繋がると思われます。イメージとして事業体を「列車」に例えるならば、コンプライアンス部門に期待される役割は「線路を敷く」役回りだと考えています。「列車」が通過するよりも早く、適切な方向で線路を敷いていくことができれば、事業体が脱線したり、違った方向に迷走したりせずに前進することができるでしょう。

監督機関とのリレーション構築

さらに、暗号資産交換業者のコンプライアンス人材に求められる重要な能力のひとつに、金融庁やJVCEAといった監督機関とのリレーション構築が挙げられます。監督機関とは日常的に質問表・作業整理表、障害報告書等の書類作成等の作成や提出に係るやり取りが発生しますので、的確なコミュニケーション能力が求められます。

暗号資産交換業者をめぐるステークホルダーは、立場(ときには分散型思想への思い)の違いからそれぞれ言うべきことは変わりますが、プレイヤーもアドバイザーも監督機関も、多かれ少なかれ新しい暗号資産やブロックチェーン技術に魅せられ、「暗号資産業界における健全な技術と市場の発展」という共通の目標を有していると思います。

暗号資産交換業者等の事業者側としては、監督機関を決して敵視するのではなく、知見を借りるため対話を切らさない姿勢が必要です。こうした「マルチステークホルダー・ガバナンス」が実践できれば、立場の違いを越えて協調しながら事業運営をすることができます。

最後に

大変僭越ながら、暗号資産業界のコンプライアンス人材に求められるマインドセットを整理してきました。以上の点を兼ね備えた「リスク・マネジメントの番人」に暗号資産業界に参画いただき、また、いつの日かご一緒できる日を心待ちにしております。

(本稿の意見にわたる部分は筆者独自のものであり、筆者が現に所属しまたは過去に所属した組織の見解を示すものではありません。)

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