2022年7月11日に開催された「Non Fungible Tokyo 2022」のセッション “NFTクリエイターセッション:次来るものは何?”をレポートします。
Akim (アキム)氏
VeryLongAnimals ファウンダー/クリエイター
日本で最も熱量の高いコミュニティを持つNFTコレクション、VeryLongAnimalsのファウンダー/クリエイター。VeryLongAnimalsでは、顔が長い動物のインターネットミームを楽しみながら、CC0に近いオープンな二次創作文化や「ちくわNFT」を使った貢献度評価によってコミュニティが盛り上がっている。投機性よりもコミュニティに重きを置くことで取引単価は順調に伸び、5月には3ETHに到達した。
草野 絵美 (くさの えみ) 氏
Fictionera代表, 新星ギャルバース共同創業者兼Creative Director
株式会社 Fictionera代表。アーティスト、東京藝術大学非常勤講師、歌謡エレクトロユニット「Satellite Young」歌唱担当・主宰。2021年、当時8歳の長男のNFTアートプロジェクト「Zombie Zoo」が世界中のアートコレクターたちの目にとまり、最高4ETH(160万円相当)で取引される。2022年、自身がクリエイティブディレクションを手がけるNFTプロジェクト「Shinsei Galverse」を開始。同年4月のリリースでは世界最大のNFTマーケットプレイスOpenseaの24時間売上ランキングで世界1位を記録した。
Kevin Abosch (ケビン・アボッシュ)氏
ARTIST
Kevin Abosch(1969年生まれ)は、伝統的なメディアや、機械学習やブロックヘイン技術を含む生成的な手法で作品を制作しているアイルランドのコンセプチュアル・アーティスト。Aboschの作品は、存在論的な質問を投げかけ、社会学的なジレンマに応えることで、アイデンティティと価値の本質に取り組んでいる。作品は、エルミタージュ美術館(サンクトペテルブルク)、中国国立博物館、アイルランド国立美術館、ジュ・ド・ポーム(パリ)、アイルランド近代美術館、ヴォイヴォディナ現代美術館、ボゴタ近代美術館、ZKM(Zentrum fur Kunst und Medien)、ダブリン空港など世界各地で展示され、その多くは市民向けのスペースに置かれてる。
Kevin氏:Kevin Aboschと申します。本日は日本のNFT界で非常に有名なお二方、草野絵美さんとAkimさんをお迎えしてアートの未来やNFTの未来についてお話しさせていただきたいと思っております。
まずは私の自己紹介から始めます。
私はクリプトアーティストとして2012年の後半頃から活動を行なっております。ご存知の方もおられるかもしれませんが、『1111』という名前のプロジェクトで、自分の血で作ったトークンをアートとして提供していたことがあります。
それでは本日のゲストの方々に自己紹介していただきたいと思います。まずは草野さん、お願いします。
草野氏:初めまして、草野絵美と申します。日本の東京出身でShinsei Galverseというプロジェクトの共同創設者とデザイナーも務めております。
自身でアニメを学ばれた彩華さんという方と、80年代から90年代の音楽についても詳しい方と一緒にプロジェクトをやっています。また今はZombie Zooというプロジェクトもやっておりまして日本でもかなり有名なNFTプロジェクトになってきています。どうぞよろしくお願いします。
Kevin氏:ありがとうございます。次にAkimさん、お願いします。
Akim氏:初めまして。京都出身のAkimと申します。私はVeryLongAnimalsという、すごく縦に長い動物の顔のアイコンを作っているプロジェクトの代表を務めております
今年の2月頃、絵を描き始めてNFTとして提供し始めました。
Kevin氏:ありがとうございます。2019年頃から様々なNFTプロジェクトが出始めたと記憶していますが、現在のようにすごい勢いで拡大するようになるまで少しタイムラグがあったと思っております。
Shinsei Galverseのような成功しているプロジェクトも出てきていますが、NFTの領域に初めて入って来た人たちや、アートを探し求めて来た人たちが、こういったデジタル上で生成されているたくさんのアニメキャラクターなどを目にすると、はじめは少し混乱するかもしれないと思うのですが皆さんはどのようにお考えでしょうか?
草野氏:そうですね。私自身はこういったコレクションができるようなアートは流動性のあるクラウドファンディングの概念に近いと思っています。こういった流動性のある、接点がどんどん増えていくようなプロジェクトになることで、アーティストがこれまではできなかったような大きなことを成し遂げられるようになるところが特徴的だと思っています。
もちろん通常のアートにはない概念のユーティリティやロードマップ、これまでの現代アートには存在しなかったような概念が、たくさん言葉として飛び交っていたりします。戸惑うところもあると思いますが、コミュニティを大きくしていくという観点で非常に重要だと思います。
例えばShinsei Galverseでは我々みんなでアニメを作るぞという形で一つの大きな目的を持ってコミュニティを形成しているので、たくさんの人の注目を集めて一緒に活動していく、資金を集めてアーティストが活動するという観点では、コミュニティを大きくすることが大切だと思っています。
Kevin氏:草野さんはこのプロジェクトを始める前からアーティストとして活動されていますよね。NFTがなければ成し遂げられなかったことも経験されているのではないかと思います。
そしてAkimさんからも話をお聞きしたいと思います。
Akimさんは面白い画像を生成されているなと思っているのですが、最初から思い描いた通りにここまで進んできたのか、そうではなかったのか、というところが気になります。
Akim氏:私自身もコミュニティを立ち上げているところで、どんどん強く大きくなってきている最中だと思っています。とはいえ、最初からビジョンがあったかというとそうではなかったというのが正直なところです。最初はこの動物の画像も20個程度作っていただけでしたが、これを公開したタイミングでどんどんコミュニティが大きくなっていったという背景があります。ですので、このアートのコンセプトがコミュニティの間で広く受け入れられて、どんどん拡大していったのではないかと思います。今もこの流れに沿って、どんどんアートを作り続けているところです。
Kevin氏:こういったアートやブランドは複数人で育てていくようなものだと思っています。単にアートをマネージメントするだけでなく、コミュニティマネージメントやソーシャル上の人たちとの関係性を管理したりと、人との関わりも大事であると考えています。
またこういったアートも最終的には商業的な成功を収める必要があると思います。その辺りについてはいかがでしょうか?
Akim氏:私もアートを作っている一方で、ビジネス的な側面もあると思っています。こうしてクリエイティブな活動をしていく中で、活動を通して得た資金を使ってコミュニティを大きくしたり、才能のある方々を採用したり、イベントを開催したり、Twitter上で議論をしたり、他のアートワークとのコラボレーションを行ったり、さまざまな方法で強いコミュニティを育てている最中です。
このような観点で見るとアーティストという側面だけではなく、ビジネス的な要素や起業家としての側面もあるのではないかと思います。
Kevin氏:ありがとうございます。草野さんもプロジェクトを立ち上げてから数日で5,000ETH以上の収益が集まったり、マーケット的にもとても盛り上がったのではないかと思っています。
今、NFTマーケットには大量のお金が流動していて、市場規模的にも大きくなっている最中だと思っています。私個人としても実際に色々な方のNFTを保有していますが、短期的に売ることは考えていません。しかし、こういったアートを収集している人の中には、短期間で売ったりする人もいて、少し投機的な側面もあるのではないかと思います。
こういった状況を見た時に、草野さんの目線では、そもそも長期的に持って欲しいのか、短期的に持つ人についてどう思うのか教えていただきたいです。
草野氏:個人的には中長期的にしっかり保有していただけることが一番嬉しいと思っています。そのため、長く持っていただける方に対して報酬を与えるような形で、例えばエアドロップをしたりトークンを渡したり、特定のユーティリティということで得られるメリットを多くしたりして、優遇したいという気持ちがあります。
一方で短期間に売りたいという方も一定数いるとは思っていて、特にこれについては心配していることはなく、我々としては新しい価値を生み出していくことが大事だと思っています。新しい価値を生み出し続けることができれば、きっと強いファンも残ると思います。
Kevin氏:Akimさん、この領域で最近感じているトレンドや、関心を持っているものなどあればお聞きしたいです。
Akim氏:たくさんのプロジェクトがあると思いますが、その中でもGoblintownのプロジェクトがとても面白いと思っています。Discordもなく、ユーティリティもなければロードマップもないというプロジェクトがGoblintownです。これがとてもカウンターカルチャー的で彼らのアートワークも非常に特徴的だと思います。ユーティリティが大事だと言われていますが、そういったところを一切気にしていないプロジェクトとして振る舞っているので、アートとしても面白いと思いましたし、非常に興味深く感じています。
Kevin氏:草野さんも世界中を旅して色々なものに触れてこられたと思いますが、何かワクワクするような経験はありましたか?
草野氏:世の中にはたくさんの素晴らしいプロジェクトがあり、個人的には、NFTアーティストが情熱を持って作っているプロジェクトであれば凄くワクワクします。今、世の中にあるプロジェクトには、マーケティングが上手だという点だけで広がっているものも多くあると思っており、アーティストさんの情熱が感じられない作品はあまり買いたいと思いません。
私はCreature Worldというプロジェクトが好きです。このアーティストさんはNFTや市場の上がり下がりに囚われず、ずっと同じ世界観で作品を作り続けているので、個人的にこのCreature Worldの作品をひとりのファンとして応援しています。
マーケティング的な側面でコレクション性の高いプロジェクトをたくさん見ることもありますが、VeryLongAnimalsも良い作品だと思っています。作られる作品が限られており流通量は少ないのですが、セカンダリーで展開されているアートのコレクションは非常にたくさんあって、たくさんのファンがいて愛されている作品だと思います。このように日本の方がコレクションを自分で立ち上げていく動きがこれから増えてくると思います。AkimさんのVeryLongAnimalsのようなプロジェクトを立ち上げたり、なにか先駆的なことができる人は天才的だと思いますし、とても尊敬できます。
Kevin氏:Akimさんのコスチュームについて、これは一点ものなのか、たくさん流通しているのか教えていただきたいです。
Akim氏:このコスチュームはメンバーが作ったものです。NFT.NYCにイベントに行く際に作られたものでして、VeryLongAnimalsを宣伝するためにニューヨークで着ましたが、見た目が少し怪しいのでびっくりされてしまうこともありました。
Kevin氏:コスチューム姿からパフォーマンスアーティストのようにも見えますが、普段はどんな活動をされていらっしゃるのでしょうか。
Akim氏:私は作品を色々作ったり、マーケターとしても活動したり、コミュニティマネージャーとしても活動したりと色々やっています。チームメンバーとも一緒に活動していますが、自分でも作品を作り続けています。
Kevin氏:ありがとうございます。この数ヶ月を振り返ると、市場が非常に縮小してしまい、仮想通貨市場も打撃を受けている状況ですが、こういった市場の動きが皆さんのプロジェクトや将来的な中長期計画に対して、何か大きな影響を与えたりインパクトを与えたりしたことはありましたか。
草野氏:我々はこの点に関してはとてもラッキーだったと思っています。
というのも、アニメーションを作る上で、早い段階からスタジオとコミュニケーションを取るために資金を手元に残す必要があったので、得た収益は比較的早い段階で売却し、日本円に換金していました。この動きがもし三ヶ月、四ヶ月と遅れたタイミングで行われていたら、アニメーション作品も時間が短くなったりエピソード数が少なくなっていたかもしれないですね。
Kevin氏:アニメーション作品を作られているとお伺いしましたが、「映画を作るぞ」や「クラブを作るぞ」、「船旅で世界一周するぞ」など、華々しい計画を約束するものがたくさんある一方で、実際にそれが実現されないケースが多いと思っています。草野さんがこの点をしっかり進められているところが本当に凄いと思いました。
草野氏:ありがとうございます。今、国内にある様々なアニメスタジオさんとお話をさせていただいているところで、既に10〜15社ぐらいの会社様とアニメ制作に向けた予算取りのお話などをしています。現在、私たちのプロジェクトは良いポジションにいると感じていて、NFTのコレクティブな作品で予算を持って活動しているのは恐らく国内初だと思います。驚かれたり中々理解してもらえなかったりすることもありますが、先進的なアニメスタジオさんはすごく関心を持ってくださっていて、文化的な価値があるという部分も伝わるようにコミュニケーションを取っている段階です。
Kevin氏:Akimさんは計画に関して何か大きな変更を強いられたりしましたか?
Akim氏:財務的な面ではやはり市場によってダメージを受けたところはありましたが、一方でラッキーな面もあったと思っています。日本のコレクターの方々は、日本円を使って作品を買われることが多いので、むしろ今回の円安の動きによって数ヶ月前と比べてVeryLongAnimalsを買いやすい状況になっていると思います。最低価格もどんどん上がっていて、プロジェクトとしても価値が上がってきていると思いますので、個人的にはあまり問題はなかったと思っています。
VeryLongAnimalsの作品は数が限られていて最初のコレクションが限定100個となっていました。世の中にあるたくさんのNFT作品よりは数が少ないという特徴があります。これが私のスタイルで、限られた数ですが、より強いコミュニティが同時に存在していると思っています。
Kevin氏:コミュニティという観点はすごく面白いポイントだと思います。誰々が大きく稼いだといった話が出てくると、コミュニティが自壊してしまうようなことも頻繁に起こりうると思っています。
皆さんのコミュニティ管理やマネージメントについて、どのように管理されているのかが非常に気になります。価格を維持するためにどのようにコミュニティマネージメントをされていますでしょうか?
草野氏:我々はDiscordの中でファンの方々とたくさんコミュニケーションを取るようにしています。コミュニケーションをとることはとても楽しいですね。Galverseの二次創作の作品やファンフィクションみたいなものがどんどん生まれていて、非常に面白いと思っています。
また世界中のノスタルジックアニメファンの方々と繋がれるのも、Galverseを通して得られる体験なので、とても嬉しく思います。一個人としても作品が大好きなのですが、一方でこういったコミュニティやDiscordを管理するのが大変だという面もありますね。
Kevin氏:24時間365日、とても大変ですよね。
草野氏:そうですね。Galverseに関してはモデレーター5人体制で管理している状態です。
Kevin氏:では次に、未来のお話をできたらなと思います。10年等、長期的な話ではなくて、次の半年や1年以内にどんなことが起きると思いますか?
Akim氏:この先1年では、価値のあるNFTコレクションのみが生き残ると思っています。この半年でたくさんのNFT作品が生まれたと思いますが、今の壮絶な弱気市場の中でNFTに明るい希望を持って投資することはなかなか難しくなってきていると思います。なので、本当に素晴らしい作品だけが生き残っていくような形になると思っています。
もちろんコミュニティとユーティリティもすごく大事であると思いますが、アーティストとしてはすごくワクワクするような嬉しい体験をホルダーの皆様に提供していく必要があると思います。
Kevin氏:今お二人からユーティリティという言葉が出てきました。パーティのチケットという例えもありますが、これに関して非常に同意できると思っています。
続いて、アートと人生という面で、これまでの百数十年間ずっとアーティストと収集家の間の関係性は固定されたものが続いてきましたが、新しいテクノロジーの登場によって全く予測できないものに変わりつつあると思います。そこで出てくるキーワードとしてユーティリティというものがある一方で、ユーティリティという言葉が価格や価値を保つための餌のような形で使われてしまっている面もあるのではないかと感じています。
最後にお伺いしたいのですが、VeryLongAnimalsはPFPプロジェクトだと思いますか?
Akim氏:PFPプロジェクトだと思っています。
Kevin氏:Galverseはどうでしょうか?
草野氏:そうですね、GalverseもPFPですね。
Kevin氏:なるほど。個人的に、GalverseもVeryLongAnimalsもPFP的な物以上の価値があると思っていますが、皆さんはPFPについてどのようにお考えでしょうか?
Akim氏:PFPはただの画像ではないと思っています。より強いメンバーシップやチケットと表現していいのか分かりませんが、とにかくたくさんの意味を持つ体験的な要素を含んでいると思います。うまく表現できませんが、私たちのPFPコレクションは、心を躍らせるような新しい価値観やそういった体験を生み出すような装置として役に立ちたいと思っています。
Kevin氏:個人的にはあるものをPFPと呼ぶことで、コレクターがそれをプロフィール画像として使わなくなったとき、もう好きじゃなくなったのか、その価値がなくなったのか、そういった考え方をしてしまうことがあると思っています。こういったパンデミック期間中に皆さんが家にいる中で、自分のアイデンティティを表現するためにNFTをソーシャルメディアのプロフィール画像に使うという動きがたくさんあったと思います。ただのプロフィール画像ではなくコミュニティに所属するような感覚が必要だったのかもしれないと思いました。
個人的には、将来PFPというものを捨てる必要があると思います。プロフィール画像としての側面もそうですし、コミュニティの一員としての側面としても、お二方のプロジェクトはとても素晴らしいものだと思っています。お二方のユーティリティにとても期待しています。
それでは最後に一言ずつお願いします。
草野氏:PFPに関して最後にお話しすると、人によっては自分の心の拠り所に思っていたり、デジタルデータに対して自分と結び付けて考える人がいると思っています。Galverseであれば、NFT画像のキャラクターっぽい服装を現実世界で着用しているような方たちも増えてきていて、デジタル上のアイデンティティ的な役割を果たしているのがNFTだと思っています。そう考えると、NFTはとても価値のあるものだと思います。
Akim氏:そうですね、私も同意します。
Kevin氏:今日は本当にお二方とお話しできて非常に嬉しかったです。本日はありがとうございました。
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