Layer2今後の予想-NFTプラットフォームを支える技術

2021年6月10-11日に開催された「Non-Fungible Tokyo2021」DAY1のセッション“Layer2今後の予想 Forecast of the Layer2”を(前半後半の内容をまとめて)レポートします。

芹川 葵 (せりかわ あおい) 氏
Co-founder & CTO at no plan inc.

2018年に参加したビットコインのハッカソンでブロックチェーンに衝撃を受け、新卒で入社した会社を退社。1年後に前職の同僚とno plan株式会社を設立。「真の意味で、誰もがブロックチェーンを利用できるようにしたい」という思いから、スケーリングソリューション(zkRollup,Optimistic Rollup)に強い関心を持つ。

日置 玲於奈 (ひおき れおな) 氏
CEO at ToyCash .Inc

スケーラビリティの手法であるzkRollupに関する改良アルゴリズムの開発を手がけるSolidityコーダー。イーサリアムにフォーカスしたプロジェクトの立ち上げに携わるほか、AML/KYCの意味、ガバナンスの改善などについても考究している。

満足 亮 (まんぞく りょう) 氏
CTO at double jump.tokyo Inc.

ソーシャルゲーム会社、EdTechアプリ会社でインフラ、SRE領域を統括。2018年6月double jump.tokyoへ入社。2020年7月より現職。インフラ設計運用、サーバーサイド開発、スマートコントラクト開発、ブロックチェーン技術調査を担当。CryptoGames技術顧問 。

真木 大樹 (さなぎ たいじゅ) 氏
BlockBase株式会社CEO

1991年生まれ。2015年から日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社にて貿易管理システムのグローバル展開、化学品総合管理システムの導入に関するコンサルティング業務を担当。2018年からブロックチェーン技術に関心を持ち、2,000以上の作品が投稿された分散型デジタルアートプラットフォームのDigital Art Chainを始め、数多くのDAppsを開発する。より高速かつ大量のプロトタイピングを通じブロックチェーンの有用なユースケースを見つけるため、2018年9月にBlockBase株式会社を創業し、代表取締役に就任。

気になる今後のLayer2展開

芹川氏登壇写真

日置氏:今日はトピックをLayer2に厳選して、話を進めていきたいと思います。なぜ今回Layer2にフォーカスするのかというと、イーサリアムのガス代(取引手数料)が非常に高騰していて、例えば5月20日あたりの相場では、1トランザクションあたりUniswapで1回取引をすると、手数料が7万5,000円にもなるんです。取引手数料というよりもほぼ半分税金のような状態になっていて、それを解決できるのがLayer2というわけです。分散性と非中央集権化といったイーサリアムの魅力は保ちつつ、取引手数料だけを飛躍的に低くするというと、良いところばかりに見えるのですが、実際のところはどうなのでしょうか。

今日は、Layer2についてさまざまな視点を持つ3名の方をお招きし、話をしていきたいと思います。

では、まずひとつ目のトピックについて伺います。

現在、Optimistic RollupやZK-Rollupと呼ばれる仕組みのものなど、Layer2がいろいろと乱立している状態ですが、ここに関して、一番良いと思われるプロジェクトや今後の予想について話していただけますか?まず芹川さんいかがでしょうか。

長期的視点での勝者はZK-Rollupか?

芹川氏:私は、短期的にはOptimistic Rollupを採用しているOptimismやArbitrumがすごく使われると思います。理由は開発者フレンドリーで、EVM(イーサリアム仮想マシン)のSolidityのコードをそのまま使うことができるからです。

しかし、長期的にはやはりZK-Rollupが勝つのかなと思っています。その理由としては、Optimistic Rollupには7日間引き出しができないとういデメリットがありますが、それをZK-Rollupでは解決しているからです。

日置氏:まさに、イーサリアムのコア開発者やヴィタリックの意見と一致するような見方だと思います。では、最近ZK-Rollupをやっているzk-Syncが、EVMをZK-Rollupでも全然イケるぜという感じで出してきていますが、それについてはどう思いますか?

芹川氏:かなり技術的に難しいことをしているので、短期的には結構難しいのではないかと思っていますが、長期的には絶対に出来るようになっていくのではと期待をしています。本当にどうなるかちょっとわからないですけれど。

日置氏:基本的にここの競争に関しては、誰も分からないですよね。一番詳しい人でも予想するのが難しいのではないかなと思います。それでは次に、真木氏さん、意見を伺ってもいいですか?

マーケティング+利益を出すプロダクトが鍵

真木氏:僕もヴィタリックさんはすごく尊敬していて、彼の「L2(Layer2)の動きはRollupに収束していくだろう」という考えを聞いて、Rollupがすごいなと思っているところはあります。

ですが、L2と厳密には言いにくい「サイドチェーン」みたいなものも結構いいなと思っているんです。

実際にNFTの発行プラットフォームとかを作ってみて、ユーザーさんからはPolygonやBSCのように、サイドチェーンや別のチェーンに近いところで結構「使いやすかった」「より気軽にコンテンツを発行することができた」という声を聞くこともありますし、セキュリティレイヤーがどう動いていて、そのセキュリティがどう担保されているのかは、まだあまり重要視される傾向にはないのかなというのが正直なところです。

そういった意味では、短期的にはセキュリティレイヤーがしっかりしているということはもちろん重視していきますが、より使いやすいところと、既存の開発エコシステムや既存ユーザー層を取り込みやすいEVMや、イーサリアムにかなり近い状態で使えるサイドチェーン、L2などがまずは来て、徐々にセキュリティレイヤーのあるところも来るようになると思います。

そして、今後はこの「セキュリティレイヤーがしっかりしている」という部分もマーケテンング要素として使われるのではないでしょうか。「うちはZK-Rollupだからセキュリティがしっかりしているよ、だから使ってね」というように、マーケティング材料として押し出してくるチェーンが増えてくるだろうなというところを見ると、結局はマーケティング勝負プラス、いかに利益が出るようにできるのかというのと、そこのエコシステムに乗っかると恩恵があるトークンのような、何かしらリターンが提供できるところが来るだろうと思います。

そうなるとマーケティング合戦になりつつ、しばらくの間は、L2が勃発しては大移動が発生するということはあるのかなと思います。

日置氏:基本的にはMetaMaskなど使えないと、ユーザーを引っ張って来るのも難しいですよね。そういうユーザーサイドとセキュリティサイドの部分というのは、だんだん交わってどこかに落ち着くと分かりやすいのですが、まだその段階にはなさそうですね。

では、満足さんはいかがですか?double jump.tokyoのいろいろなゲームなどで、実際に多くのユーザーを集めてトランザクションを生んでいると思いますが、どのような感じになっていくと予想していますか?

満足氏:やはり、象徴的なユースケースがあるところが、最初は強いと思います。例えば「Gods Unchained」というブロックチェーンゲームを作っている、Immutableという海外の会社が「Immutable X」というL2を始めようとしてマーケティングを頑張っているところなのですが、そこはZK-RollupでVMも積んでいません。Gods Unchainedというカードゲームの大量のNFTをミントするためだけに作ったものなので、ZKでNFTとFTくらいしか扱えませんし、正直なところトレードぐらいしかできないと思うのですが、カードを発行するようなプラットフォームとしては分かりやすいL2ではないでしょうか。

先ほど真木さんが言っていたように、ArbitrumやOptimismはVMを積んでいれば大体は何でもできるようになるので、トップのプロダクトを呼んできたり、トークンをAirdropして誘致したりといったマーケット合戦になっていくと思います。

ただ、その中でL2を作っている人たちが象徴的なユースケースを出せないというのが結構辛くて、そうするとPolygonとかBSCのようにVMを積んでいれば別にどれでも良いとなってしまいますし、全て似たようなDeFiが並んで、全てにボットが動きはじめて、全てが一緒になっていくのではないかと思っています。

汎用と特化型、どちらのLayer2が良いのか?

真木氏登壇写真

日置氏:特化型のLayer2と、汎用なLayer2とどちらがいいのかという点に関しては、今はまだいろいろな人が答えを出せずにいると思いますが、その点について技術者として芹川さんはどのように考えていますか?

芹川氏:特化型のL2というと、Loopringみたいなものですよね。Loopringは取引をするにはいいと思いますが、L2自体にお金を入れる必要があるので例えば、他のプロジェクトにお金を出そうと思ったら、現状ではもう一回L1に戻らなくてはいけません。そういった意味では汎用的なL2の方が、開発者からすると使いやすいのかなと思います。

日置氏:つまりは、インターオペラビリティ(相互運用性)の話になるわけですね。次のトピックでは、まさにこのインターオペラビリティについて話をしていきたいと思います。

特化型のRollupというのは、トレーダーがトークンを動かしたりするのに一度Layer2をLayer1にあげて、また他に出したりするということが非常に煩雑なのではないかという、インターオペラビリティ上の問題について芹川さんから話がありましたが、この点について満足さんはいかがでしょうか?

マイクリ(My Crypto Heores)やマイサガ(My Crypto Saga)といった多くのユーザーを抱えるアプリケーションをLayer2やサイドチェーンにデプロイされている中で、実際にLayer2が乱立して分かれてしまっていることによる弊害というものを認知し、問題として向き合っているということはありますか?

満足氏:我々のアプリケーションでも、やはりユーザーが既にNFTを持っているという状況になっていることはあります。特に昨年はイーサリアムのトランザクション手数料が高騰した時に、ブロックチェーン上のオンチェーンでの取引が全然できず、本来やりたかったことが全くできないといった状況が発生していました。

それではいけないだろうということで、ある種の中央集権的な方向でブリッチ自体は我々も実装していて、イーサリアムにあるユーザーのアセットをゲートウェイコントラクトのようなものに預けてもらい、それを代理でサイドチェーンなどにミントし直したり、もしくはサイドチェーンにあるものをトランスファーしてそのユーザーに返したりといったことで、実現は一応しています。

日置氏:Layer2、Layer1に関わらず、NFTの場合、そしてある程度侵害されているエンティティがある場合に、そういった方式による技術上の解決ができたらということですね。

今後も、いろいろ断たれてしまったり、乱立されたりしても大丈夫そうですか?

満足氏:我々としても、中央集権的にやっていることが良いことだとも思っていないです。その反面、ある程度NFTのブリッチはネットワークのプロコトル上、勝手にできると思いますが、そうなった時に、じゃあ発行体が代理でやっているものとネットワーク間のブリッチでトークンが移ったものは、サイドチェーン上では全く別物として扱われてしまうので、そういうブリッチのプロトコルはどんどん増えていくと思います。そうなった時に、どれが結局本物なんだっけ?というのは起こるとは思っていますが、まだそんなに出てきてないですね。

ユーザーに選択肢を与えることが重要

満足氏登壇写真

日置氏:サイドチェーンで事実上同一視されるべきNFTにいろいろ違いが生まれたり、あるいはNFTの規格上、サイドチェーン、Layer2、Rollupそれぞれに、外部の画像のURLなどが紐付けられたりすると思うのですが、こういったものが識別可能になって、別々のプロバイダが立っていくという状態が結構あると思います。これについて真木さんはどのように思っていますか? 今、Chocofactoryでそういった問題にも取り組んだりしていますか?

真木氏:先ほど満足さんがおっしゃっていたようにチェーンを横断するケースがある場合は、うまくトラッキングできる仕組みや、どこが本物なのかが分かるようになっていくのが良いというのはもちろん前提としてあるのですが、実際としては、NFT自体がユースケースとして出している中で、インターオペラビリティを必須とする要件までまだ成熟していないのではないかとも思っています。

今はコンテンツをNFTにして販売するという、新しいクリエイターの販売チャネルとしてNFTが使われているケースが多いと思いますが、それであればNFTを販売するチェーンがひとつあれば良いというのが大前提にあって、イーサリアムで発行して、Polygonに移行してOptimismに行って……というようなチェーン間を移動するモチベーションは、コンテンツの発行者側にも、コンテンツを所有する側にもまだ無いと思っています。

その点、ERC20のステーブルコインや法定通貨に近いコインであれば、こちらで使っているコインを、資産としてこちらに移すというユースケースは、今あるインターオペラビリティは結構重要視されていると思います。ですがNFTはまだそこが重要視されるところまで来ていないので、まずはユーザーにしっかり選択肢を与えるということと、サイドチェーンであるPolygonや別のジャンルのBSCなど、これからメインネットにどんどんリリースしていくL2があった場合に、どれを選べるのかという選択肢がしっかり羅列できていること、その上で、やはりどのチェーンを選んだら良いのか分からないというところがニーズとしてはあると思います。

ユーザー層やネットワークの混み具合、過去にどのくらい混んでいて、これからどうなっていくのかといった予想などがチェーンごとにあると思うので、ユーザー自身がコンテンツを発行する際にどのチェーンを選ぶべきなのかという点が、ある程度数値やデータとして選ぶことができるような情報を提示することが、課題解決として現状では必要なのかなと考えています。

FT移動のメカニズムとは?

日置氏:FTとNFTの違いのようなものとして、FTは基本的にはやはりLayer2というか、Rollup間で移動ができないと結構辛いということがあって、それと比べるとNFTは少し使いやすい立ち位置にあって有利なのかなと思います。

以前、芹川さんはFTの移動に関するメカニズムについて、Twitter上でもいろいろとリサーチしているのを見かけたのですが、この点に関して改善はありますか?

芹川氏:ファンジブルトークンを他のチェーンに移すというブリッチのプロトコルが何個か出てきて、ホップエクスチェンジというプロトコルやコネックストと読むのかちょっと分かりませんが、ステートチャネルを使ったようなブリッチの仕組みが出てきています。ホップに関しては再建トークンのようなものを発行し、それを管理者に一回預けて別のチェーンでその再建トークンを発行して、チェーンからチェーンの移動を表現するといった感じの仕組みですね。

日置氏:Compound DaiのcDAIみたいな感じですかね。ヴィタリックがホッププロトコルの改善みたいなものも提案していた覚えがありますが、そこに関して意見はありますか?

芹川氏:ヴィタリックが提唱していたのは、送る時に「このチェーンのこのアドレスに送ってください」というメモを加えて、あるチェーンの資産のコントラクトに送り、別のチェーンでメモに入っていたアドレスから引き出して別のトークンを取り出すというものなのですが、それはチェーン間でトランザクションの検証をしないといけないので、結構難しいのではないかと思っています。その一方で、一番本質的だと思っていて興味はあります。

日置氏:そういったRollup同士の価値の交換のシステムに改良が提案されているというのは、DeFiのスワップの改良にちょっと似たところを感じます。これからも、そういった新しい発明品のようなインターオペラビリティに、何か予兆はありますか?

芹川氏:そうですね、どんどん生まれてくるのではないでしょうか。

今後期待される新しいビジネスやアイデアについて

日置氏登壇写真

日置氏:では最後に、こうした新しいエコノミーが生まれている中で、今後どういった新しいビジネスやアイデアが生まれるかについて考えたいと思います。

例えば、Layer1に出す時に7日間必要なことが、Optimistic Rollupの悪い部分として記憶されていますが、これを改善する案としてガバナンスで出金してしまうなど、そういった新しい形のゲートウェイのビジネスが今考えられているわけです。

みなさんは、どのような感じでこれから新しいアイデアを生み出すか、あるいは今そうしたアイデアをお持ちでしたら、どんどん言っていただけると嬉しいです。

真木氏:新しいアイデアではなく、今まで出来ていなかったことが出来るようになっただけだとは思うのですが、最近国内でもマーケットプレイスなどを出している、nanakusaさんやNFTStudioさんを見ていても、やはりクレジットカード決済のようなことが気軽にできるようになっているなと思っています。イーサリアムだけだと、イーサリアムのトランザクション手数料、代行のようなことをクレジットカード決済だとしなくてはいけませんでした。1トランザクションを代行するだけで数千円かかるのは、現実的に持続可能ではないと思っていたのですが、現状ではPolygonなどのサイドチェーンを使えるようになって、1トランザクションあたり1円もかからないので、よりユーザーに使いやすいUXを提供できるようになったという点では、ビジネスを構築する上でユーザーの敷居を下げたという部分で、やはりL2・サイドチェーンは大きく貢献しているのではないかと感じています。

日置氏:TX代行やメタトランザクションの幅が広がるという感じですかね。

真木氏:メタトランザクションが広がっても、UXをかなり考えやすく、ユーザーファーストにしやすくなったというところがありますね。

日置氏:満足さんはどうですか?もしかしたら、double jump.tokyoの新しい方針が出てしまうのではと、ちょっと緊張しますが(笑)。

満足氏:いやいや、そんなものはないですけど(笑)。NFTに関して言うと、多分どのチェーンでどういう発行体が準備するようなエコシステムとは別に、OpenSeaであるとか自由にブロックチェーンであるからにはエコシステムはあると思いますが、そのどこで何をするかというのは基本的にユーザーが選べるものだと思っています。

例えば、Immutable Xなどは、オフチェーンないしはL2で一旦ミントしたことにして、その後にETHに出すのですが、その時のコストやタイミングなどはユーザー任せ、L1に出さなくてもImmutable X上でトレードできるという世界観になっているので、NFTとL2は相性が悪いわけではないと思っています。ただし、一旦はそういう特化的な利用からスタートしていくのかなとも思っていますし、そういうものがあると便利でZKとかに保証されているのなら言い訳が立つというか、みんな安心できるのではないかと思っています。

日置氏:初め低コストでNFTを遊び始め、ゲームでも遊び始めて、最終的にL1の非常に価値の高いネットワークに乗せられるという二重構造になると嬉しいですよね。

では、最後に芹川さん、いかがですか?

芹川氏:double jump.tokyoさん等がやられているような、「いろいろなチェーンのNFTを一旦預かって、他のチェーンに出す」というのがシンプルに強いですよね。普通の人がやろうと思ってもその人をトラストしないといけないですけど、double jumpさんが不正をするかというと、普通に考えるとしないじゃないですか。トラストを利用したブリッチというのが、結構美味しいのではないかなと思っています。

日置氏: 「Don’t trust Verify」というよりは「Trust but Verify」みたいな形式ですよね。

今回は、Layer2に関してすごく多くの知見を頂き、非常に良いセッションができたかなと思います。

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