2022年7月11日に開催された「Non Fungible Tokyo 2022」のセッション “進化する多様性。L2、サイドチェーン、どちらが主流になるのか”をレポートします。
Amber (アンバー) 氏
Flow APAC Lead
岡山 佳孝(おかやま よしたか)氏
Polygonインターナショナルマーケティングチーム/日本担当
Polygonの日本におけるマーケティングを担当し、Polygon Japanとして日本でのコミュニティ運営、新規企業開拓、メディアリレーション等を行う。
Rotten (ロテン)氏
Astar Network, シニア・ビジネスディベロップメント
Astar入社以前は、チェーンを横断して様々なGameFiプロジェクトに貢献。前職では、PEファンドからのアポイントにてグローバル展開しているホテル運営スタートアップの取締役兼日本カントリーマネージャーを務める。
上野 育真(うえの いくま)氏
Vict Pte. Ltd. Chief Strategy Officer
ソーシャルゲーム会社、EdTechアプリ会社でインフラ、SRE領域を統括。
2018年6月double jump.tokyoへ入社。2020年7月より現職。
インフラ設計運用、サーバーサイド開発、スマートコントラクト開発、ブロックチェーン技術調査を担当。CryptoGames技術顧問。
上野氏:みなさんこんにちは、Non Fungibe Tokyo 2022の「進化する多様性。L2、サイドチェーン、どちらが主流になるのか」のセッションへようこそ。
私は、上野育真と申します。Akiverseと呼ばれるメタバースプロジェクトの最高戦略責任者を務めています。また、SG verseのパートナーとして、Web3事業への投資と資金管理をしており、両方に通じて、Web3に完全にフォーカスしています。
今日は、L1、L2、そしてサイドチェーンの有望なプロジェクトからのゲストが参加しています。詳しい話をしていく前にこれらの違いを簡単に説明すると、イーサリアムのL2とサイドチェーンの大きな違いは、L2はメインチェーンのセキュリティを利用することができ、一方でサイドチェーンはイーサリアムと並行している別のチェーンです。
今日のゲストはAstar NetworkからRottenさん、Polygonから岡山 佳孝さん、そしてFlowのAmberさんの3人です。
それでは、Rottenさんから自己紹介とプラットフォームの説明とそこでの役割を教えていただけますか。その時に、プロジェクトがL1、L2、サイドチェーンのどれにあてはまるのかなども一緒に説明していただければと思います。
Rotten氏:こんにちは、私はRottenです。Astar Networkでのポジションは、エコシステムの成長を担当しているシニアビジネス開発です。Astar NetworkはPolkadotエコシステムのパラチェーンで、スマートコントラクトレイヤーです。そのためAstar NetworkはL1だと考えています。
上野氏:ありがとうございます。次にPolygonの岡山さんお願いします。
岡山氏:私はPolygonの国際マーケティングチームの日本担当です。PolygonはL2やサイドチェーンではなく、イーサリアムのスケーリングソリューションです。
上野氏:ありがとうございます。それでは、次にAmberさんお願いします。
Amber氏:Amberといいまして、FlowのAPACエコシステムを見ています。
2016年からリサーチを始め、2017年に中国最大級の仮想通貨コミュニティを共同創業しました。その後、コンサルとしてFlowをサポートし、昨年Dapper Labsに正式に入社しました。Dapper LabsはCryptoKittiesを生み出した会社です。現在はWeb3が多くの人にとって、アクセスしやすく、安全なものにするための取り組みを行っています。
FlowブロックチェーンはDapper LabsがWeb3アプリのために開発したエコフレンドリーなブロックチェーンです。ユーザーエクスぺリエンスが優れているので、この相場でも成長し続けています。
上野氏:ありがとうございます。
今日はいろんな分野からのゲストがいて、参加者も全世界、あらゆる業界から来ています。
プロトコルの構築とユースケースを考えて、Proof of Conceptを実施する専門家として、どの業界でのブロックチェーン活用がトレンドで、どの分野にブロックチェーンが活用されるべきだと思いますか? Rottenさん、お願いします。
Rotten氏:現在のイーサリアム互換であるEVM(イーサリアム仮想マシン)環境では、ブロックチェーン技術を自社のビジネスに取り入れるには実際のユースケースが限定されてしまっていると思います。
思いつくのは、消費者ブランドや公共財が、NFTやシンプルなブロックチェーン技術をプロモーションやマーケティングに活用することが解決策の一つだと思います。
もう1つは、ゲーム業界です。ゲーム業界は常にトランザクションコストが安く、かつマーケットプレイスではプラットフォーマーへの支払いなしで無限に取引ができるので、今ゲーム業界がWeb3に参入しようとしていることは本当に素晴らしいことだと思っています。
上野氏:私も同じ意見です。P2Pでのゲームアイテム売買はまさにWeb3が実現できるものです。次にAmberさん、お願いします。
Amber氏:基本的にブロックチェーン技術は信用のためのソリューションだと考えています。そのため、透明性や権力の分散や信用が必要となる分野などでは遅かれ早かれ全面的にブロックチェーンが実装されるのではないかと思っています。
Flowはリテール、小売り系の事例が多いです。リテール業界におけるブロックチェーンの活用はまだ始ったばかりですが、今後より多くのユースケースが出てくるでしょう。
その中で、有名な事例としては今最も普及しているクリプトアプリのNBA Top Shotsです。
NBAプレイヤーとチームのハイライトのカードを集めることができます。
NBA Top Shotsの登録ユーザー数は200万人以上で、累計取引高は10億ドルを超えています。
この成功の後、大手ブランドがデジタルトランスフォーメーションに取り組んで、ファンをブロックチェーンの世界に連れてこようとしてくれています。
インターネットのユーザーは50億人いるので、まだマスアダプションは始まったばかりで、まだまだたくさんの人たちに参加してもらえる大きなチャンスがWeb3にはあると思います。
上野氏:なるほど、ありがとうございます。岡山さんには少し質問を変えてお伺いします。ブロックチェーンを使ったどんな新しいビジネスが思いつきますか?
岡山氏:まず、思い浮かぶのは、Web2の大手上場企業がWeb3に参入するときに難しく感じると思っていて、Polygon SupernetsのPolygon IDのようなDID(分散型ID)が必要となると思います。そこで、そういったサービスが成長するのではないかと思います。
上野氏:すでにDIDの観点で多くのサービスが誕生しはじめていますね。
ただ、Web2の企業にブロックチェーンの紹介をするとよく「ブロックチェーン技術は世界的な規模で活用できるのでしょうか?」「スケーリングやセキュリティの問題は解決していて、現在のソリューションはそれらを解決できるのでしょうか?」といったことを質問されます。皆さんの中でこの質問に答えたい人はいますか?
Rotten氏:これまでで明確になったのは、1つのチェーンが全てを独占するのではなく、マルチチェーン、もしくはマルチレイヤーが標準になるということです。
さらに、私の考えではあるのですが、EVMやSolidityに依存するとイノベーションに限界が来るでしょう。
Astar NetworkはEVMのためのL1チェーンですが、同時にWebAssembly Virtual Machineをサポートしています。これは、新規のディベロッパーやプログラマーがWeb3の世界に参入しやすくするためです。
彼らは、これまで使ってきた技術で、ブロックチェーンの世界にとって新しい技術を提供することができるようになります。なので、将来的にマルチレイヤー、マルチ言語、マルチ仮想マシンが主流になると思います。
上野氏:Amberさんはどう思いますか?
Amber氏:Rottenさんに完全に同意します。
それぞれのソリューションには、それぞれのゴールとミッションがあります。
L1という観点では、それぞれが差別化していて、特定のユースケースで勝とうとしています。例えば、Solanaは高頻度でのDeFiユースケース、Flowはできる限り多くの一般人をユーザーとして獲得することです。こういった戦略の違いから狙うターゲットも変わってくるので、将来的には間違いなくマルチチェーンになると思います。
上野氏:私もそう思います。岡山さん、何か追加のご意見はありますか?
岡山氏:私はEVMを使う必要があると思っています。
EVMはセキュリティには課題はありますが、それぞれのプロトコルが資金調達をしていて、成長させてきているため、どんどん安全なものになってきていると思っています。
上野氏:皆さん、マルチチェーンの話をしていましたが、マルチチェーンに関して投資家がプロダクトやプロジェクトに投資する時にチェックするべきポイントはどこなのか、岡山さんの視点から教えていただけますか?
岡山氏:私はクリエイターに対してフレンドリーであることが重要だと思っています。
エンジニアやクリエイターはそれぞれが繋がっているので、サービスを使うとその良さを口コミで広めてくれています。
これによって、私たちのプロダクトも成長していて、もちろんPolygonに対してのイーサリアムコミュニティのフィードバックで成長しています。なので、他のサービスとのコラボレーションを生み出すための親和性が重要だと思います。
上野氏:Amberさんが プロトコルに投資をする時の決定要素はなんですか?
Amber氏:いくつか観点がありますが、1つ目は何を解決しようとしているかを理解することです。例えば、多くのNFTプロジェクトが有名なブランドやセレブに支援されていることをアピールしていますが、もしWeb2で同じような体験ができるなら、既存のファンはNFTを購入するかしないかはあまり重要ではなくこういったプロジェクトにはお金を支払う価値があまりないと思います。
次に、チームのバックグラウンドや、トークノミクス、投資期間含め、しっかりと見ることが大事だと思っています。また、できるなら投資家自身がコミュニティに参加して、そのコミュニティの強さを確認することが大事だと思います。
上野氏:コミュニティが全てというのは私も同意です。Rottenさんはどうですか?
Rotten氏:私もAmberさんに同意します。
現在、私たちが仮想通貨業界で体験しているのは投機です。
投資という観点でいうと、最初はアイデアがよくなかったとしても、コミュニティが頑張ってHYIPを起こしてどんどん価格が上がっていったものが一番成功していると思います。
投資家の観点だとプロトコルの実際のユーティリティと他のプロトコルとの相互運用性を提供しているか、こういったところが重要になると思います。
多くのプロジェクトは、すでに存在している時価総額が高いプロジェクトなどをフォークさせることを推奨しますが、私たちが現在のトレンドを変えるには、新しいアイデアが生まれてくる必要があると思っています。
上野氏:そうですね。この業界はまだまだ成長するプロトコル、プロジェクトはたくさんあり、投資家としてはどれを選ぶのか非常に困難です。私たちはブロックチェーンを普及させるために何ができて、どうやって多くの人にL1、L2、サイドチェーンなどのようなテクノロジーの進捗を理解、納得してもらえると思いますか?Rottenさんからお願いします。
Rotten氏:難しい質問ですね。
プロジェクトはまず新しいテクノロジーにフォーカスする必要があると思っています。Astar Networkに対してはWASM(WebAssemblyの略称)環境の提供に対して非常に高い期待が寄せられています。こちらを提供することでエコシステムに新しい開発者が来て、新しいアイデアを生み出してくれるはずです。個人的には現在のSolidity環境には技術的な限界があり、DeFi、NFT以降、新しいイノベーションが起きていないと思っています。
Vitalik Buterinの新しい論文で発表されたSoulboundトークンには期待しており、これが新しいイノベーションを生むのではないかと思っていますが、それ以外ではWASMとWeb2サービスにWeb3をどう組み込むのかが、重要になると思っています。
上野氏:なるほど。岡山さんはブロックチェーンの普及には何が必要だと思いますか?
岡山氏:Web3以外の人たちと話す必要があるかなと思っています。
日本でのケースになりますが、大企業の方達とメタバースなどについて話していくと、どんどんテクノロジーに対して関心を持ってもらえることがわかります。ですので、いつでも自分たちのアイデアやプロトコルに関しての説明ができるように準備しておくことが重要だと思っています。
上野氏:Amberさんは、現在のプロトコルが勝者になるのか、それとも新しいプロトコルが将来的に誕生するのかどちらになると思いますか?
Amber氏:インターネットのユーザーは50億人いるので、ブロックチェーンにはまだまだ多くの機会があると思っています。Flowはすでにユースケースがあり、市場もブロックチェーンの強みをどんどん理解し始めている非常にいいタイミングです。Flowは若い世代のための最高の体験を作ろうとしており、彼らに使い続けてもらうために、既存のWeb3コミュニティではなく、「使う」ことにフォーカスしています。デジタルネイティブ世代のユーザーは、スマホやインターネットとともに育ってきたので、分散型ネットワークなどへの理解も非常に早いです。
上野氏:若い世代が重要なのは同意です。
次に、自分達のプロジェクトを成長させるためにどのような人材を探していますか?また、この業界に参入しようとしている人へのアドバイスをお願いします。
Amber氏:私は、メインストリームの方とクリプト好きの方の両方からの人材を歓迎しています。私たちのチームのDNAはより良いアプリを作ることから来ています。CryptoKittiesからDapper wallet、そしてNBA Top Shotsの流れがそれを示しています。私たちは継続的にイノベーティブなユースケースを生み出しています。もっと文化的なグループがブロックチェーンに参加して、スマホでそういったグループのアプリを利用できるようにしたいです。私たちとしては、同じビジョンを持っている人に対してFlowエコシステムに参加して欲しいと思っています。
上野氏:次にRottenさんお願いします。
Rotten氏:AstarはPolkadotのスマートコントラクトレイヤーなので、あらゆる分野の人材を求めています。特に、開発者は常に足りないので、カンファレンスで良い出会いがあればいいなと思っています。ビジネスディベロップメントという観点では、創業者が日本人なので日本に力を入れてる部分はありますが、Astarはグローバルでビジネス展開しており、アメリカ、EUで人材を探しており一緒にエコシステムを拡大してくれる方を世界中で探しています。
上野氏:どうやって人材を探していますか?Astarのチームは多様な人材が集まっているので、ぜひその方法を知りたいです。
Rotten氏:そうですね、実際、85%のメンバーは日本国外からのメンバーです。私たちはカンファレンスに参加して、それぞれの人たちと個別に話をしています。また、リファラル採用が一番のメインルートになっています。私たちは、哲学とバリュー、やる気を特に重視しているので、やはり実際に会って、しっかりと話をすることが非常に重要だと考えています。
上野氏:なるほど。リモートとリアルではリアルの方がいいですか?
Rotten氏:私自身の面接はリモートでしたが、この時代では物理的に会うことに特別な価値があると思っています。
上野氏:Polygonではどう考えていますか?
岡山氏:この分野は総合格闘技みたいに、いろんな分野について関心を持つ必要があるので、いろんな分野に才能がある人が欲しいです。また、キャッチアップしないといけないことが多く、かつマルチタスクで並行していろんなことを処理しないといけないので、タフさと他分野への関心は必ず必要です。
上野氏:エンジニアはもちろんだと思うのですが、実際にどういった分野の人材を探していますか?
岡山氏:私個人としては、マーケティングに関係する人材が必要だと思っています。
ただ、私たちの業務は細分化されてカテゴリーされている分野ではないので、どんなポジションで入ってもいろんな事をやる必要があります。
上野氏:この分野に興味を持っている人は大歓迎ということですね。また、いろんなところから情報を学ぶ姿勢が大事ということですね。
最後に、最も難しい質問かなと思いますが、L1、L2、サイドチェーンは最終的にどうなって、誰が勝者になると思いますか?
Amberさんからお願いします。
Amber氏:重複になるかもしれませんが各ソリューションにはそれぞれのミッションとゴールがあるので、どのソリューションも勝つ可能性があると思います。
現在、様々なL1、L2、サイドチェーンが存在して、Web3をより安価にパフォーマンスを向上させ、開発者がやりたいことや好きなものを開発できるようにすることで、多くの新規ユーザーをWeb3に参加させようとしています。新規の一般ユーザーを呼び込むために、Flowチェーンは最も多くのトレードオフを行っているプロジェクトの一つです。
CryptoKittiesを始める前から、Flowは一般ユーザーをブロックチェーンの世界に呼び込むことをゴールとしていて、それに向けて取り組んでいます。
上野氏:次に、Rottenさんお願いします。
Rotten氏:ご存じのようにAstarはWebAssembly Virtual Machineにかなりの力を入れています。EVMはこれまで成功してきましたが、すでに限界が見えているので、L1、L2ではなく、新しい仮想マシンが新しいイノベーションの誕生に必要であると考えています。なのでWebAssemblyを使えるように実装したチェーンが次の世代の勝者になると思っています。いいニュースとして、先週、私たちのShiden NetworkがWASMをメインネットで対応し始めたので、これによってWASM開発者が参入し、良いプロダクトを作ってくれるのを楽しみにしています。
上野氏:ありがとうございます。最後に、岡山さんどうぞ。
岡山氏:私は、いずれかが1人勝ちするとは思っておらず、そもそもWeb3市場が生き残るのかどうかが大きな問題だと思っております。市場が成長するなら、全員が勝つ可能性もあるのではないかと思っています。なので、いろんなプロトコルと協力していきたいと思っています。
上野氏:なるほど。この弱気相場によって、いくつかのプロトコルがなくなると思っていますか?
岡山氏:そうですね、いくつかのプロトコルは消えると思います。ただ、このセッションに来たプロトコルは残ると思います。
上野氏:いろんな観点からの素晴らしい意見をありがとうございました。リスナーの皆さんにとっても役に立つ話が聞けて良かったです。
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