ブロックチェーン・暗号資産(仮想通貨)業界内で活躍する女性にスポットを当てた特集記事「ブロックチェーン女子部」。
今回は、Maker FoundationのKathleen Chu氏にお話を伺いました。
現在DeFi領域で起きていることや、これからのMakerDAO、変化の大きい領域での情報収集のコツなど、気になる内容を存分に語っていただきます。
Kathleen Chu(キャサリン・チュウ)
大手メディアのジャーナリストからブロックチェーン企業へ転職。その後、MakerDAOの発展を促す組織であるMaker Foundationにて日本のコミュニティリードを務める。
目次
ジャーナリズムの世界からブロックチェーン業界へ
元々は、Bloombergという会社でジャーナリストとして働いていました。長い特集記事を読むことがとても好きで、ジャーナリストの仕事はやりがいもあり楽しく取り組んでいました。
しかし、何か新しいことに挑戦したいという思いも同時に持っていました。新たな役割につくことで、自分自身にチャレンジし、常に学習し続けながら変化していくことができます。そうすることで、自分の人生をより豊かにしていくことができると思うんです。
ブロックチェーンについて初めて学んだ日
2017年に、あるブロックチェーン企業の採用面接を受けることになりました。当時、私のジャーナリストとしてのキャリアは10年を超えており、新たな世界に飛び込むなら今なのでは?と思っていました。新しいことを学ぶチャンスだと考え、まだ発展途上の業界であるブロックチェーン関連の企業に魅力を感じたんです。
実は、初めてブロックチェーンや暗号資産について深く学んだのはこの時です。ビットコインについて聞いたことはありましたが、当時は特に深く考えてはいませんでした。しかし面接の前夜、ブロックチェーンについてネット検索していたところ、どんどん面白くなってきて夢中になってしまい、気づけば夜中の3時になっていました。
前日遅くまで起きていたのに、面接当日は不思議と疲れをあまり感じず、むしろ新しい仕事のチャンスにワクワクしていたのを覚えています。そして無事に、その会社に入社することになりました。
暗号資産とブロックチェーンがもたらす希望
暗号資産やブロックチェーンについて調べていく中で、これらが社会に与える影響に強く興味を引かれました。ブロックチェーン技術を利用することで、世の中の不平等や社会問題を解決できるかもしれない。ブロックチェーンによって、より良い世界が実現できるのではないか。そんな希望が湧いてきたんです。
お金について考え直し、プログラマブルマネーや即時決済を通じて誰もが簡単に経済にアクセスできるようになれば、大きな変化がおこります。ブロックチェーン技術は、ピアツーピアの取引を直接行うことができる次世代のインターネット、Web3のバックボーンとして機能するものです。この技術をうまく活用することで、現代の世の中に存在している、様々な問題解決の糸口となるのではないでしょうか?
一部の豊かさと金融市場から排除された人々
金融の世界に目を向けてみましょう。日本では当たり前のように銀行口座や証券口座を開設して、金融サービスを受けることができる。これが常識ですよね。しかし、世の中には、こういったサービスにアクセスすることができない人々もたくさんいます。
例えば、金融サービスにアクセスできる人がいたとして、S&P500種指数(全主要業績を代表する米国株式500銘柄で構成される、アメリカ経済のパフォーマンスを示す株価指数。)に過去10年間投資をしていたと仮定しましょう。チャートは右肩上がりで、資産を2倍以上に増やすことができました。
その一方で、金融サービスにアクセスできない人はどうでしょうか?資産を増やすどころか、そのチャンスすら与えられていない状況です。これでは格差は広がる一方ですよね。
特定の組織によって運営されている既存の金融サービスに対し、DeFiは中央で管理する組織が存在しないため、人によってアクセスが制限されることはありません。希望すれば誰でもサービスを利用することができます。
ブロックチェーンは、勝者総取りの世界を変える起爆剤となるか?
今度はインターネットの世界に目を向けてみます。GoogleやFacebookのような巨大企業がユーザーのデータを大量に収集・取引し、他社が競争を出来ない状況を作り上げています。
そしてこれらの大企業が提供するYouTube、Facebook、Instagramといったプラットフォーム上には、個人のコンテンツクリエイターによる作品やアイディアが広くシェアされています。近年、個人の影響力が増していると言われるようにもなりましたね。
しかし、これらの中央集権的プラットフォームはクリエイターに対してほんのわずかな利益配当しか与えていません。クリエイター達は、自身の作品を本当に「所有」していると言えるでしょうか?
こういった問題には、NFT(Non-Fungible Token)が解決のカギとなりうるのではないかと思います。スマートコントラクトを活用することにより、ブロックチェーン上で作品が販売される度に、制作者は自動的にその売り上げの一部を得ることができ、自分の作品で継続的に報酬を得られます。
コンテンツ制作者が、中央集権的なプラットフォームに頼らず直接的に報酬を得られるのは、ポジティブな変化です。この技術を賢く使えば、貢献した分だけ報酬を得られる、より公正な社会を作れると思います。
MakerDAOとMaker Foundation
私が働いているのはMakerDAOではなく、Maker Foundationです。簡単にこの2つについて説明しますね。
MakerDAOとは?
MakerDAOは、2014年に設立された自律分散型組織です。いかなる特定の組織によっても管理されていないので、MakerDAOを提供している”企業”やMakerDAOの”社員”といったものは存在しません。
MakerDAOは、分散型ステーブルコインを作った最初のコミュニティでもあります。このステーブルコインはDaiと呼ばれ、企業や政府・国家といった特定の組織に支配されないアセットとして存在しています。
これまで、通貨は国家が管理し発行するのが当たり前でした。そんな常識を打ち破り、人類の歴史の中で初めてコミュニティが管理するステーブルコインが生まれたというのは感動的です。
Daiでは、Makerプロトコルと呼ばれる自律的なスマートコントラクトシステム、およびコミュニティによる分散型のガバナンスを通じて、ボラティリティが軽減されています。DaiはDeFiの暗号通貨 であり、共通して利用できるステーブルコインがあるからこそ、エコシステムが発達し、MakerDAOは発展してきました。
Maker Foundationとの出会い
そして、先ほど説明したMakerDAOの発展を促す組織が、私が働いているMaker Foundationです。
Maker Foundationのチームに初めて出会ったのは、プラハのDevcon4に参加した時でした。そこで聞いた、MakerDAOの公平な分散型ステーブルコインを作るという計画に興味を引かれ、最終的にMaker Foundationで働くことになったんです。
現在はJapan Leadとして、様々な戦略を通じ、日本でのDaiおよびMakerプロトコル普及促進を担当しています。具体的にやっていることとしては、コミュニティ構築、日本語訳されたコンテンツを通じたMakerDAOおよびDaiにまつわる知識の共有、法律関連問題について弁護士との協議 、潜在的パートナーとの会談、PRおよびマーケティングなど、多岐に渡ります。
DeFi界隈では常に新しいことが起こっているので、最新の動向についていくことは簡単ではありません。また、私の場合日本語が母語ではないので、イベントでのスピーチなどを準備するのは骨の折れる仕事です。
しかし、幅広いスキルを求められる分、やりがいも大きいですね。自分たちのアプローチについて総括的な見方をしながら、ビジネスの様々な側面から戦略的に計画を立てられるようになり、自分自身の成長も感じています。また様々なプロジェクトで、たくさんの同僚やコミュニティメンバーと関わることも貴重な体験です。
ながら学習で時短しながら情報収集
前述の通り、DeFiは非常に変化が激しいため、情報をキャッチアップしていくためには工夫も必要です。
私は、ニュースレターを読んだ後、より深く情報収集したい ことをいくつかリストアップし、それらについてのポッドキャストやYouTubeを探すようにしています。全ての情報を網羅するのは難しいので、特に重要だと思うことをいくつか選択するというのがポイントです。また、ポッドキャストやYouTubeだと聴きながら別のこともできるので時間の節約にもなりますね 。
オーディオブックで本を聴くのも大好きです。最近印象的だった本は、レイ・ダリオ氏の「PRINCIPLES(プリンシプルズ) 人生と仕事の原則」ですね。Bloombergのような大企業と、Maker Foundationのような新しい組織の両方でキャリアを積んだことで、組織のあり方についても興味を持つようになりました。
この本は、組織の成功とは何かや、意思決定に関して覚えておくべきことについて、素晴らしい知見を与えてくれるのでオススメです。
コロナ禍での働き方は?
1月に初めて新型コロナウイルスのニュースを耳にした時、多くの中国人が旅行するようになったことを考慮すると、 SARSの時よりさらに感染の拡大は早いだろうと思っていました。すぐに共同オフィスに出向くのをやめ、リモートワークを開始しました。リモートワークへの移行はかなりスムーズだったと思います。
また、毎月「やさしいDeFi」というミートアップを実施しているのですが、こちらも新型コロナウイルスの状況を受けてオンラインに移行しました。参加者同士やスピーカーと直接触れ合うネットワーキングができないのは寂しいですが、地方や外国など住んでいる場所に関係なく参加できるという利点を活かしながら、 引き続き毎月開催しています。
世界から見た日本のMakerDAOコミュニティ
日本のMakerDAOコミュニティには勉強熱心な方が多く、物事を深く掘り下げて議論することが多いですね。知識豊富な方が多いことは、とても心強いです。
MakerDAOコミュニティを世界的に見ると、各地域によってMakerDAOを学ぶ理由が異なっているのが分かります。例えば、アルゼンチンや、自国通貨が価値を失いつつあるその他のラテンアメリカの国々では、Daiを資産価値を維持する方法として見ており、貰った給料をDaiに交換しています。
一方日本では、自国通貨の価値は安定していますが、長い間銀行の金利がほぼゼロに近いという状況があります。このことから、DeFi分野のイールドファーミングに興味を持っている方々が多いですね。
イールドファーミングは、分散型取引所などのDeFiサービスにユーザーが資産を貸し出すことで流動性提供に貢献し、金利や手数料を得る運用方法です。今年 のDeFi分野の成長加速の一因ともなっており、受動収入を得る一つの方法としても大きく話題になっています。
常に変化し成長するDeFi
DeFi領域は急速に変化しています。MakerDAOも今年1年で急激に成長してきました。これは、コードがオープンソースで、一般的に利用できる暗号資産としての 互いの上に構築し合うことができるというところがポイントになっています。
前述のイールドファーミングも、DeFiの成長加速や話題を集める要因となっていますが、これは良い面と悪い面があると思っています。
良い面は、現在の金融市場を変革し、アクセスしやすく透明性の高い市場へとアップグレードできる可能性があるという点です。 悪い面としては、既存の金融世界では通常なかったようなレバレッジが見られ、急速に金利が上昇するなど、ユーザーにとって必ずしもプラスにならない状況も発生してしまっている点です。
DeFiはただのバブルで終わるのか?
今、DeFiに大きな注目が集まっており、DeFiバブルとも言われていますね。このバブルが崩壊する時には一時的にマイナスの影響があるかもしれません。ですが、このテクノロジー自体は存在し続けると思っています。
DeFi領域で行われていることは、巨大な実験室での科学実験とも呼ばれ、進歩への重要なステップです。まさに、革命と言えるでしょう。
これが広く世の中に浸透すれば、人類の歴史の中で初めて、どこにいてもインターネットへのアクセスがある限り、誰でも同じサービスにアクセスできます。
とはいえ、今後一進一退することもあるかもしれません。しかし、全体的には良い方向に向かっていくと、私は信じています。
これからのMakerDAOとMaker Foundation
MakerDAOは、2019年11月に複数担保型Daiのローンチに成功しました。Maker Foundationでは、現実世界の資産を取り込み、担保を増やすためのコミュニティ議論促進に焦点を当てています。
DeFiに現実世界の資産を取り込むということは、MakerDAOコミュニティがこれまでずっと議論してきたことであり、DeFiを現実世界の一般人と関連性のあるものにしていく唯一の方法なので、コミュニティとして最も重要視していることの一つです。
また、コミュニティがさらなる役割を担うことで、MakerDAOのさらなる分散化を押し進め、Maker Foundationの段階的な解散にも取り組んでいます。
MakerDAOを完全にコミュニティが所有し管理する形にしていきたいので、最終的にはMaker Foundationは解散する予定です。
これから暗号資産、ブロックチェーン業界で働きたいと思っている方へ
暗号資産およびブロックチェーン業界は、とても刺激的な場所です。この分野が発展していくにつれて、あらゆる分野のプロフェッショナルが必要になってきます。まだ始まったばかりの業界ですが、今後絶対に発展していくと信じています。
まずはインターネットで入手できる資料全てを使って、自分で学習してみてください。大きなカンファレンスに参加することも、他者との繋がりを持つにはいい機会です。適応力に自信のある方、テクノロジーが世界をどのように変えるかに興味があり、変化を生み出す影響力の一部になりたいとお考えの方には、暗号資産・ブロックチェーン業界は最高の場所です。
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